都鄙問答 / 実業
都鄙問答(実業)の名句を、現代語訳と実践の解説つきで。全272句。
石田梅岩(一六八五〜一七四四)の主著で、元文四年(一七三九)に刊行された問答集です。丹波の農家に生まれ、京都の商家で長く奉公した梅岩は、四十五歳で自宅に講席を開き、聴講料を取らずに誰でも迎え入れて、訪ねてくる学者・武士・町人・僧の問いに答え続けました。その問答を門人とともに四巻十六段にまとめたのが本書で、書名の「都鄙」は都と田舎、身分も立場も違う人々との問答であることを表しています。もっともよく知られているのは巻之二「或学者、商人の学問を譏るの段」です。売って利を得ることを卑しむ学者に対して、梅岩は「商人の買利は士の禄に同じ」と答え、「実の商人は先も立ち、我も立つことを思ふなり」と、相手と自分の双方が成り立つ商いを説きました。段の結びは「士農工商ともに天の一物なり、天に二つの道有らんや」です。利そのものを卑しむ時代に、商いを職分として正面から位置づけ直したこの段は、日本の商人道の出発点とされ、石門心学として全国に広がりました。ただ、本書の分量の四分の一を占めるのは巻之三「性理問答の段」で、心を知り性を知ることこそ学問の初めだという梅岩の学問論が、学者との長い応酬のなかで展開されます。巻之四では、浄土宗の僧、神詣での作法を問う人、医者を志す子を持つ親、奢る主人に仕える者と、相手ごとに話が具体になり、最後は天地開闢の説をめぐる問答で閉じられます。底本は『日本教育文庫 心学篇』(同文館、一九一一)所収の都鄙問答で、原本の表記のまま(片仮名交じり・旧字・読点のみ)翻刻されたものです。国立国会図書館の全文テキストは行の読み順が入れ違う箇所があるため、画像上の座標から読み順を組み直し、表記を改めた二つの版(有朋堂『心学道話集』一九二七、『心学道話全集』第五巻 一九二八)と突き合わせて、読み誤りを一件ずつ直しました(五百九十九箇所)。底本の表記そのものは改めていません。師導では四巻十六段を二百七十二の章句に収め、本文七万六百六十四字の百パーセントを覆いました。読み下し文は片仮名を平仮名に、旧字を新字に改め、漢文の引用を書き下したものです。底本の全文は研究用の全文コーパスにも収めています。学派は「実業」に置いています。