都鄙問答 / 卷之一・孝ノ道ヲ問ノ段
或問曰、我若年ノ比ハ、前後ノ辨モナキコトナレバ、親ヘ不孝ノコトモアルベケレドモ、最早壯年ノ比ヨリハ、孝行ノ心付モ有ユヘニ、何ノ不孝モイタサズ、隨分心一盃ニツトメ候ヘドモ、是ホドノ孝行ハ世間ニモ有ルコトナレバ、天下ニ誰ト名ヲ呼ルヽホドノ孝行ヲ、勤見申度候、如何樣ニ致シ然ルベク候ヤ、
新字:或問曰、我若年ノ比ハ、前後ノ弁モナキコトナレバ、親ヘ不孝ノコトモアルベケレドモ、最早壮年ノ比ヨリハ、孝行ノ心付モ有ユヘニ、何ノ不孝モイタサズ、随分心一盃ニツトメ候ヘドモ、是ホドノ孝行ハ世間ニモ有ルコトナレバ、天下ニ誰ト名ヲ呼ルヽホドノ孝行ヲ、勤見申度候、如何様ニ致シ然ルベク候ヤ、
書き下し
或ひと問ひて曰く、我若年の比は、前後の弁もなきことなれば、親へ不孝のこともあるべけれども、最早壮年の比よりは、孝行の心付きも有るゆへに、何の不孝もいたさず、随分心一盃につとめ候へども、是ほどの孝行は世間にも有ることなれば、天下に誰と名を呼ばるるほどの孝行を、勤め見申したく候。如何様に致し然るべく候や。
現代語訳
ある人が尋ねました。「若いころは分別もなかったので親に不孝をしたこともあったでしょうが、壮年になってからは孝行に気づくようになり、何の不孝もせず、精一杯つとめてきました。けれどもこの程度の孝行は世間にもあることですから、天下に誰それと名を呼ばれるほどの孝行を勤めてみたいのです。どうすればよいでしょうか。」
解説
孝ノ道ヲ問ノ段の冒頭です。問う人は、自分はもう十分に孝行をしていると思っており、そのうえで世に名が知られるほどの孝行をしたいと言います。この問い自体に、梅岩がこれから崩していく思い込みが詰まっています。孝行を人に見せる成果として考え、他人と比べて一段上を目指そうとする心です。善いことをしたいという気持ちの中に、評判を求める心が紛れ込むことは珍しくありません。梅岩はそこを見逃さず、次の答えで本と末を問い直していきます。
この章句が説くこと
孝名聞評判親孝ノ道
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