都鄙問答 / 卷之一・孝ノ道ヲ問ノ段
答、父母ノ心ニ逆ハズ、我顏色溫和ニシテ、親ノ心ヲ痛ザルヤウニ事ラバ、孝行トモ云ベキカ、曰、父母ノ心ニ逆ザルト、顏色溫和ニスルコトハ、輕コトニテ勤リヤスキコトナリ、タトヒ能スレバトテ、內證ノコトナレバ、世ニ呼ルヽ程ノコトハ有マジク候、我云所ハ、他人ノ目ニモ、發知ト立ホドノコトヲ勉見申度候、
新字:答、父母ノ心ニ逆ハズ、我顔色温和ニシテ、親ノ心ヲ痛ザルヤウニ事ラバ、孝行トモ云ベキカ、曰、父母ノ心ニ逆ザルト、顔色温和ニスルコトハ、軽コトニテ勤リヤスキコトナリ、タトヒ能スレバトテ、内証ノコトナレバ、世ニ呼ルヽ程ノコトハ有マジク候、我云所ハ、他人ノ目ニモ、発知ト立ホドノコトヲ勉見申度候、
書き下し
答ふ、父母の心に逆はず、我が顔色温和にして、親の心を痛めざるやうに事へなば、孝行とも云ふべきか。曰く、父母の心に逆はざると、顔色温和にすることは、軽きことにて勤まりやすきことなり。たとひ能くすればとて、内証のことなれば、世に呼ばるる程のことは有るまじく候。我が云ふ所は、他人の目にも、発知と立つほどのことを勉め見申したく候。
現代語訳
梅岩は答えました。「父母の心に逆らわず、自分の顔つきを穏やかにして、親の心を痛めないように仕えるなら、孝行と言えるでしょう。」問う人は言いました。「父母の心に逆らわないことや、顔つきを穏やかにすることは軽いことで、たやすく勤まります。たとえ上手にできても家の中のことですから、世間に名が聞こえるほどのことにはならないでしょう。私が言っているのは、他人の目にもはっきりと目立つほどのことを勤めてみたいということです。」
解説
梅岩の最初の答えは、父母の心に逆らわず、穏やかな顔色で仕えるという、ごく日常的なものでした。論語為政篇で孔子が「色難し」、つまり顔色を和らげて仕えることこそ難しいと言ったのを踏まえた答えと読めます。ところが問う人は、それは軽くてたやすいことだと退けます。家の中の見えない勤めより、外から目立つ行いに価値を置いているからです。毎日の小さな態度こそ難しいのに、それを軽んじて大きな手柄を求める。仕事でもよく見かける構図です。
この章句が説くこと
孝顔色温和日常目立つ
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