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都鄙問答 / 卷之四・學者ノ行狀心得難キヲ問ノ段

或問曰、或所ニ幼年ヨリ學問シ、四書五經ハ云ニ及バズ、何ニテモ書物暗ズル程ノ德有ル人アリ、然レドモ心得ガタキコト多シ、一事ヲ擧テ云ハヾ、金銀借用等ニ、不埒ナルコト多シ、夫トモニ、手前ニモ儉約ヲ守ラルヽ上ニテ、是非ナク不足アラバ、他ノ了簡モ有ベケレド、手前ハ取ジメナク、他人ニ不埒ヲナシ、且親ヘノ事モ、何トヤラ惡鋪トコロ有テ、親ノ心ニ合ハザレバ、先ハ不孝ト云ベキカ、扠身ノ行作ヲ見レバ、物知リ顏ニ我ヲタカブリ、辯舌ハ鮮ナレドモ、聞ナレヌ挨拶ニテ、兔角耳ニ入ニクシ、ナニトヤラ寄ソヒガタキ風俗有テ、十人ガ九人マデハ嫌フナリ、是ヲ以テ見レバ、親ノ氣ニ入ラヌモ、尤ナリト云者多シ、博學ノ德有テ、加樣ナル身持アルハ、如何ナルコトゾ、

新字:或問曰、或所ニ幼年ヨリ学問シ、四書五経ハ云ニ及バズ、何ニテモ書物暗ズル程ノ徳有ル人アリ、然レドモ心得ガタキコト多シ、一事ヲ挙テ云ハヾ、金銀借用等ニ、不埒ナルコト多シ、夫トモニ、手前ニモ倹約ヲ守ラルヽ上ニテ、是非ナク不足アラバ、他ノ了簡モ有ベケレド、手前ハ取ジメナク、他人ニ不埒ヲナシ、且親ヘノ事モ、何トヤラ悪鋪トコロ有テ、親ノ心ニ合ハザレバ、先ハ不孝ト云ベキカ、扠身ノ行作ヲ見レバ、物知リ顔ニ我ヲタカブリ、弁舌ハ鮮ナレドモ、聞ナレヌ挨拶ニテ、兔角耳ニ入ニクシ、ナニトヤラ寄ソヒガタキ風俗有テ、十人ガ九人マデハ嫌フナリ、是ヲ以テ見レバ、親ノ気ニ入ラヌモ、尤ナリト云者多シ、博学ノ徳有テ、加様ナル身持アルハ、如何ナルコトゾ、

書き下し

或ひと問ひて曰く、或所に幼年より学問し、四書五経は云ふに及ばず、何にても書物暗ずる程の徳有る人あり。然れども心得がたきこと多し。一事を挙げて云はゞ、金銀借用等に、不埒なること多し。夫ともに、手前にも倹約を守らるゝ上にて、是非なく不足あらば、他の了簡も有るべけれど、手前は取りじめなく、他人に不埒をなし、且つ親への事も、何とやら悪鋪ところ有りて、親の心に合はざれば、先づは不孝と云ふべきか。扠身の行作を見れば、物知り顔に我をたかぶり、弁舌は鮮なれども、聞きなれぬ挨拶にて、兎角耳に入りにくし。なにとやら寄りそひがたき風俗有りて、十人が九人までは嫌ふなり。是を以て見れば、親の気に入らぬも、尤なりと云ふ者多し。博学の徳有りて、加様なる身持あるは、如何なることぞ。

現代語訳

ある人が尋ねました。「ある所に、幼いころから学問をして、四書五経はもちろん、どんな書物でもそらんじるほどの学識のある人がいます。けれども腑に落ちないことが多いのです。たとえば金銀の貸し借りにだらしがない。自分でも倹約を守ったうえでどうしても足りないのなら事情もあるでしょうが、本人はしまりがなく、他人に迷惑をかけ、親への接し方もどこか悪く、親の心にかなっていないので、まずは不孝と言うべきでしょう。身の振る舞いを見ても、物知り顔で威張り、弁舌はさわやかでも聞き慣れない物言いで、どうにも耳に入りにくい。何となく近寄りがたい雰囲気があって、十人のうち九人までが嫌います。これでは親に気に入られないのももっともだと言う人が多いのです。博学の徳がありながら、このような身持ちであるのはどういうことでしょうか。」

解説

卷之四の最初の段は、学問はあるのに金にだらしなく、親に不孝で、人に嫌われる学者についての問いから始まります。問う人は「博学の徳」があるのになぜ、と首をかしげます。ここには、知識の量と人としての徳を同じものと見なす前提があります。梅岩はこのあと、その前提そのものを崩していきます。資格や知識の豊富な人が組織の中で信頼されない、という場面は今もよくあります。知っていることと、できていることを分けて見る問いの出発点です。

この章句が説くこと

学問倹約不孝信頼

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