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都鄙問答 / 卷之二・或人親へ仕之事ヲ問之段

曰、イカサマ是ノ不審ハ尤ニ候、一事ヲ擧テ云ハヾ、芝居ノ顏見世每、棧鋪二三軒モ借リ候ヘバ、相應ノ雜用カヽリ申候、委細ハ申スニ及バズ、思召ノ外入用コレアリ候、此味ハ、學知ノ及ブ所ニテハ此ナク候、答、芝居顏見世、一度ニ棧鋪二三軒モ借ルト云ヘリ、其客ト云ハ、振舞ノ雜用ノミナラズ、其上悉金銀ヲ出ス客ナラン、其金銀ノ出ル客ヲ、二三軒ノ棧鋪ニ一杯オカバ、親ノ渡サルヽ小遣ニテ、足ラザルコト聞ヘタリ、イカサマ世ニ稀ナル藥袋ナシトハ、汝ガコトナリ、家內ノ手代ハ、一分二分五厘三厘ヲ爭テ商賣ヲナシ、汗ヲ流シ設クル金銀ヲ、一度ニ遣費コト、家內ノ人ノ血肉ヲ吸カラスニ同ジ、殷ノ紂王ノ、比干ガ胸ヲサクニ異ナラズ、

新字:曰、イカサマ是ノ不審ハ尤ニ候、一事ヲ挙テ云ハヾ、芝居ノ顔見世毎、棧鋪二三軒モ借リ候ヘバ、相応ノ雑用カヽリ申候、委細ハ申スニ及バズ、思召ノ外入用コレアリ候、此味ハ、学知ノ及ブ所ニテハ此ナク候、答、芝居顔見世、一度ニ棧鋪二三軒モ借ルト云ヘリ、其客ト云ハ、振舞ノ雑用ノミナラズ、其上悉金銀ヲ出ス客ナラン、其金銀ノ出ル客ヲ、二三軒ノ棧鋪ニ一杯オカバ、親ノ渡サルヽ小遣ニテ、足ラザルコト聞ヘタリ、イカサマ世ニ稀ナル薬袋ナシトハ、汝ガコトナリ、家内ノ手代ハ、一分二分五厘三厘ヲ争テ商売ヲナシ、汗ヲ流シ設クル金銀ヲ、一度ニ遣費コト、家内ノ人ノ血肉ヲ吸カラスニ同ジ、殷ノ紂王ノ、比干ガ胸ヲサクニ異ナラズ、

書き下し

曰く、いかさま是の不審は尤もに候。一事を挙げて云はゞ、芝居の顔見世毎に、桟敷二三軒も借り候へば、相応の雑用かゝり申し候。委細は申すに及ばず、思し召しの外入用これあり候。此味は、学知の及ぶ所にては此なく候。答ふ、芝居顔見世、一度に桟敷二三軒も借ると云へり。其客と云ふは、振舞の雑用のみならず、其上悉く金銀を出す客ならん。其金銀の出づる客を、二三軒の桟敷に一杯おかば、親の渡さるゝ小遣ひにて、足らざること聞えたり。いかさま世に稀なる薬袋なしとは、汝がことなり。家内の手代は、一分二分五厘三厘を争ひて商売をなし、汗を流し設くる金銀を、一度に遣ひ費すこと、家内の人の血肉を吸ひからすに同じ。殷の紂王の、比干が胸をさくに異ならず。

現代語訳

若旦那「なるほど、そのお疑いはもっともです。一つ例を挙げれば、芝居の顔見世のたびに桟敷を二、三軒も借りるので、相応の費用がかかります。細かいことは申しませんが、お考えの外の出費があるのです。この味わいは、学問の知恵の及ぶところではありません。」梅岩「芝居の顔見世に一度で桟敷を二、三軒も借りると言いましたね。その客というのは、もてなしの費用だけでなく、すべて金を出してやる客なのでしょう。そんな客を二、三軒の桟敷いっぱいに置けば、親の小遣いで足りないのも当然です。なるほど世に稀な大たわけとは、あなたのことです。店の手代たちは、一分、二分、五厘、三厘を争って商売をし、汗を流して稼いだ金を、一度に使い果たすのは、家の者の血肉を吸い尽くすのと同じです。殷の紂王が比干の胸を裂いたのと変わりません。」

解説

若旦那は、芝居の顔見世ごとに桟敷を二、三軒借りて客をもてなしていると明かし、この楽しみは学問ではわからないとうそぶきます。梅岩は、手代たちが一分二分、五厘三厘を争って汗を流して稼いだ金を一度に使い果たすことを、家の者の血肉を吸うのと同じだと厳しく言います。諫めた忠臣比干の胸を裂いた紂王の暴虐にたとえるのは、稼ぐ人の苦労への想像を欠いた浪費だからです。現場が細かい利益を積み上げている事業で、上が一度に大きく使ってしまう構図への警告として読めます。

この章句が説くこと

浪費倹約手代交際商売

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