都鄙問答 / 卷之四・或人主人行狀ノ是非ヲ問ノ段
家々ヘ奉加帳ヲ出スコト有テ、强進レバ旦家迷惑シ、出シカヌル金銀ヲ出サセ、人ヲ苦メ傷ルハ殺生ト云者ナリ、一戒ヲ破レバ、五戒ハ盡破ナリ、證ヲ以テ言ベシ、毘婆娑論ニ、一ノ鄔波索迦有、性仁賢ニシテ五戒ヲ受持テリ、專精シテヲカサズ、後ニ一時ニ於テ水ニ逼、一ノ器ヲ見レバ酒有リ水ノ如シ、取テコレヲ飮、ソノ時飮酒戒ヲ破レリ、時ニ隣ニ雞有、來テ家ニ入ル、盜殺テコレヲ食、殺生戒ト偸盜戒ヲ破リ、隣ノ女、雞ヲ尋ニ來ル、强逼是ニ交ル、邪淫戒ヲ破リ、隣ヨリ官所ヘ訴フ、コレヲ拒爭テ妄語戒ヲ破、如是一戒ヲヲカスニ依テ、五戒悉ク破レテ、佛ノ罪人トナル、佛心ヲ悟テ後ハ、假令奉加ヲ勸ル共、勸ル上直ニ敎ト成ベシ、神佛トモニ如斯、
新字:家々ヘ奉加帳ヲ出スコト有テ、強進レバ旦家迷惑シ、出シカヌル金銀ヲ出サセ、人ヲ苦メ傷ルハ殺生ト云者ナリ、一戒ヲ破レバ、五戒ハ尽破ナリ、証ヲ以テ言ベシ、毘婆娑論ニ、一ノ鄔波索迦有、性仁賢ニシテ五戒ヲ受持テリ、専精シテヲカサズ、後ニ一時ニ於テ水ニ逼、一ノ器ヲ見レバ酒有リ水ノ如シ、取テコレヲ飲、ソノ時飲酒戒ヲ破レリ、時ニ隣ニ鶏有、来テ家ニ入ル、盗殺テコレヲ食、殺生戒ト偸盗戒ヲ破リ、隣ノ女、鶏ヲ尋ニ来ル、強逼是ニ交ル、邪淫戒ヲ破リ、隣ヨリ官所ヘ訴フ、コレヲ拒争テ妄語戒ヲ破、如是一戒ヲヲカスニ依テ、五戒悉ク破レテ、仏ノ罪人トナル、仏心ヲ悟テ後ハ、仮令奉加ヲ勧ル共、勧ル上直ニ教ト成ベシ、神仏トモニ如斯、
書き下し
家々へ奉加帳を出すこと有りて、強く進むれば旦家迷惑し、出しかぬる金銀を出させ、人を苦しめ傷むるは殺生と云ふ者なり。一戒を破れば、五戒は尽く破るゝなり。証を以て言ふべし。毘婆娑論に、一の鄔波索迦有り、性仁賢にして五戒を受持せり。専ら精しくしておかさず。後に一時に於て水に逼られ、一の器を見れば酒有り水の如し。取りてこれを飲む。その時飲酒戒を破れり。時に隣に雞有り、来りて家に入る。盗み殺してこれを食ふ。殺生戒と偸盗戒を破り、隣の女、雞を尋ねに来る。強ひ逼りて是れに交る。邪淫戒を破り、隣より官所へ訴ふ。これを拒み争ひて妄語戒を破る。是くの如く一戒をおかすに依りて、五戒悉く破れて、仏の罪人となる。仏心を悟りて後は、仮令奉加を勧むる共、勧むる上直に教と成るべし。神仏ともに斯くの如し。
現代語訳
家々に寄付の帳面を出し、強く勧めるので檀家は迷惑し、出しにくい金銀を出させて人を苦しめ傷つける、これは殺生というものです。一つの戒を破れば、五戒はことごとく破れます。証拠を挙げて言いましょう。『毘婆娑論』に、ある在家の信者がいて、性格は情け深く賢く、五戒を受けて保ち、きちんと守って犯しませんでした。ところがある時、喉が渇いてたまらず、一つの器を見ると水のような酒があり、取って飲みました。そこで飲酒戒を破りました。その時、隣の鶏が家に入ってきたので、盗んで殺して食べ、殺生戒と偸盗戒を破りました。隣の女が鶏を探しに来ると、無理に迫って関係を持ち、邪淫戒を破りました。隣の家から役所に訴えられると、これを拒んで言い争い、妄語戒を破りました。このように一つの戒を犯したことで五戒がことごとく破れ、仏の罪人となったのです。仏の心を悟った後であれば、たとえ寄付を勧めても、勧めること自体がそのまま教えとなるでしょう。神も仏も同じことです。
解説
この章句が説くこと
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