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都鄙問答 / 卷之二・或學者、商人ノ學問ヲ譏ノ段

答、賣利ヲ得ルハ、商人ノ道ナリ、元銀ニ賣ヲ、道トイフコトヲ聞ズ、賣利ヲ欲ト云テ、道ニアラズトイハヾ、先孔子ノ、子貢ヲ何トテ御弟子ニハナサレ候ヤ、子貢ハ孔子ノ道ヲ以テ、賣買ノ上ニ用ヒラレタリ、子貢モ賣買ノ利無クバ、富ルコト有ルベカラズ、商人ノ買利ハ、士ノ祿ニ同ジ、買利ナクバ、士ノ祿無シテ事フルガ如シ、或所ニ、屋鋪ヘ出入スル用達シ二人アリ、又外ヨリ出入ヲ望者在リシガ、買物方ノ役人申サレケルハ、二人ノ用達ヨリ入ル物ハ、殊外ニ高直ニ相見ユルト云テ、彼ノ出入ヲ望者ノ絹ト見合有ケル時、過分ノ直違アレバ、役人殊外ニ機嫌アシク、二人ノ用達ヲ一人宛呼テ、汝ガ方ヨリ差上候吳服、殊外高直ニツキ、外ヲモ見合候所、

新字:答、売利ヲ得ルハ、商人ノ道ナリ、元銀ニ売ヲ、道トイフコトヲ聞ズ、売利ヲ欲ト云テ、道ニアラズトイハヾ、先孔子ノ、子貢ヲ何トテ御弟子ニハナサレ候ヤ、子貢ハ孔子ノ道ヲ以テ、売買ノ上ニ用ヒラレタリ、子貢モ売買ノ利無クバ、富ルコト有ルベカラズ、商人ノ買利ハ、士ノ禄ニ同ジ、買利ナクバ、士ノ禄無シテ事フルガ如シ、或所ニ、屋鋪ヘ出入スル用達シ二人アリ、又外ヨリ出入ヲ望者在リシガ、買物方ノ役人申サレケルハ、二人ノ用達ヨリ入ル物ハ、殊外ニ高直ニ相見ユルト云テ、彼ノ出入ヲ望者ノ絹ト見合有ケル時、過分ノ直違アレバ、役人殊外ニ機嫌アシク、二人ノ用達ヲ一人宛呼テ、汝ガ方ヨリ差上候呉服、殊外高直ニツキ、外ヲモ見合候所、

書き下し

答ふ、売利を得るは、商人の道なり。元銀に売るを、道といふことを聞かず。売利を欲と云ひて、道にあらずといはば、先づ孔子の、子貢を何とて御弟子にはなされ候や。子貢は孔子の道を以て、売買の上に用ひられたり。子貢も売買の利無くば、富むこと有るべからず。商人の買利は、士の禄に同じ。買利なくば、士の禄無くして事ふるが如し。或る所に、屋舗へ出入する用達し二人あり。又外より出入を望む者在りしが、買物方の役人申されけるは、二人の用達より入る物は、殊の外に高直に相見ゆると云ひて、彼の出入を望む者の絹と見合せ有りける時、過分の直違ひあれば、役人殊の外に機嫌あしく、二人の用達を一人宛呼びて、汝が方より差し上げ候呉服、殊の外高直につき、外をも見合せ候所、

現代語訳

梅岩は答えました。「売って利を得るのは商人の道です。仕入れ値で売ることを道だとは聞いたことがありません。売って得る利を欲だと言って道にはずれるというのなら、まず孔子はなぜ子貢を弟子にしたのでしょう。子貢は孔子の道を売買のうえに用いた人です。子貢も売買の利がなければ富むことはできなかったはずです。商人が売買で得る利は、武士の禄と同じです。利がなければ、武士が禄なしに仕えるようなものです。ある所に、屋敷へ出入りする御用達が二人いました。ほかにも出入りを望む者がいたところ、買物方の役人が、二人の御用達から納める品は特に値が高く見えると言って、出入りを望む者の絹と比べてみると、たいへんな値の違いがありました。役人はひどく機嫌を損ね、二人を一人ずつ呼んで『おまえのところから納めている呉服はひどく高い。ほかと比べたところ、」

解説

本書でもっとも有名な主張の一つ、「商人の買利は士の禄に同じ」がここに出ます。俗に「売利」の形で引かれますが、底本も二つの後刷り本もこの箇所は「買利」と書いています。売買で得る利は、武士が主君から受ける禄と同じく、職分を果たして受ける正当な報酬だという論理です。論拠は、孔子の弟子で商才に長け富を築いた子貢(論語先進篇、史記貨殖列伝)。利そのものを卑しむ当時の通念に対し、商いを職分として公に位置づけ直した一文で、日本の商人道の出発点とされます。

この章句が説くこと

商人俸禄子貢職分

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