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都鄙問答 / 卷之二・或學者、商人ノ學問ヲ譏ノ段

天下萬民產業ナクシテ、何ヲ以テ立ツベキヤ、商人ノ買利モ、天下御免シノ祿ナリ、夫ヲ汝獨、賣買ノ利バカリヲ、慾心ニテ道ナシト云ヒ、商人ヲ惡ンデ斷絕セントス、何以テ商人計リヲ賤メ嫌フコトゾヤ、汝今ニテモ、賣買ノ利ハ渡サズト云テ、利ヲ引テ渡サバ、天下ノ法破リトナルベシ、上ヨリ御用仰付ラルヽニモ、利ヲ下サルヽナリ、然バ商人ノ利ハ、御免シ有ル祿ノ如シ、然レドモ田地ノ作得ト、細工人ノ作料ト、商人ノ利トハ士ノ如クニ定メテ、幾百石幾十石トハ云フベカラズ、日本唐土ニテモ、賣買ニ利ヲ得ルコトハ定リナリ、定リノ利ヲ得テ、職分ヲ勉レバ、自ラ天下ノ用ヲナス、商人ノ利ヲ受ズシテハ家業勉ラズ、吾祿ハ賣買ノ利ナルユヘニ、

新字:天下万民産業ナクシテ、何ヲ以テ立ツベキヤ、商人ノ買利モ、天下御免シノ禄ナリ、夫ヲ汝独、売買ノ利バカリヲ、慾心ニテ道ナシト云ヒ、商人ヲ悪ンデ断絶セントス、何以テ商人計リヲ賤メ嫌フコトゾヤ、汝今ニテモ、売買ノ利ハ渡サズト云テ、利ヲ引テ渡サバ、天下ノ法破リトナルベシ、上ヨリ御用仰付ラルヽニモ、利ヲ下サルヽナリ、然バ商人ノ利ハ、御免シ有ル禄ノ如シ、然レドモ田地ノ作得ト、細工人ノ作料ト、商人ノ利トハ士ノ如クニ定メテ、幾百石幾十石トハ云フベカラズ、日本唐土ニテモ、売買ニ利ヲ得ルコトハ定リナリ、定リノ利ヲ得テ、職分ヲ勉レバ、自ラ天下ノ用ヲナス、商人ノ利ヲ受ズシテハ家業勉ラズ、吾禄ハ売買ノ利ナルユヘニ、

書き下し

天下万民産業なくして、何を以て立つべきや。商人の買利も、天下御免しの禄なり。夫を汝独り、売買の利ばかりを、欲心にて道なしと云ひ、商人を悪んで断絶せんとす。何を以て商人ばかりを賤しめ嫌ふことぞや。汝今にても、売買の利は渡さずと云ひて、利を引きて渡さば、天下の法破りとなるべし。上より御用仰せ付けらるるにも、利を下さるるなり。然れば商人の利は、御免し有る禄の如し。然れども田地の作得と、細工人の作料と、商人の利とは士の如くに定めて、幾百石幾十石とは云ふべからず。日本唐土にても、売買に利を得ることは定まりなり。定まりの利を得て、職分を勉むれば、自ら天下の用をなす。商人の利を受けずしては家業勉まらず。吾が禄は売買の利なるゆゑに、

現代語訳

「天下の万民は生業がなければ何によって立つでしょうか。商人の利も天下がお許しになった禄です。それをあなた一人が、売買の利だけを欲心で道がないと言い、商人を憎んで絶やそうとする。どうして商人だけを賤しみ嫌うのですか。あなたが今、売買の利は渡さないと言って利を差し引いて払えば、天下の法を破ることになるでしょう。お上から御用を仰せつけられるときも利をくださるのです。だから商人の利は、お許しのある禄のようなものです。ただし田地の収穫、職人の作料、商人の利は、武士のように何百石何十石と定めることはできません。日本でも中国でも、売買で利を得るのは決まりごとです。決まった利を得て職分に励めば、おのずと天下の用をなします。商人は利を受けなければ家業に励めません。わたしの禄は売買の利であるから、」

解説

商人の利は「天下御免しの禄」、お上も認めた正当な報酬だという主張です。梅岩は、お上でさえ御用を命じるときに利を払うのに、あなた一人が利を欲心だと言うのは筋が通らない、と学者に迫ります。一方で、武士の禄のように何百石と固定はできない、利は相場とともに動くものだと、前段の議論とつないでいます。定まりの利を得て職分に励めば天下の用をなす、利を受けなければ家業に励めない、という言い方には、利益を事業継続の条件と見る現代的な感覚があります。

この章句が説くこと

職分家業天下

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