都鄙問答 / 卷之三・性理問答ノ段
人ト畜類トハ、類異ル故ニ、鳥獸共ニ人ヲ懼テ、近ヅクコトナキヲ、聖神ハ私心ナキユヘニ、彼ガ懼ルヽコトヲ見テ、此ヲ心トシ玉フ、夫故ニ、牛ハ此レヲ好ム、羊ハ彼ヲ好ム、豕ハ此ヲ好ム、馬ハ彼ヲ好ム、此ハ强シ、彼ハ弱シ、此ハ厲、彼ハ靜ナリト、向フ所ノ物ヲ、自ノ心トシテ、彼ガ氣質ノ性ノ儘ヲ能知リ玉ヒテ、人ニ馴伏スルヤウニシ玉フニヨリ、多クノ獸ヲ馴シタガヘテ、後世鬼神ニ諸肉ヲスヽメ、又老人ヲ養フコトヲ敎玉フ、然レバ天地ニ生ヲ受ル物ハ、自弱モノヽ、强キ者ニ從フハ、是天之道ナリ、聖神其德在ニ因テ、無益ノ物ヲ不殺、理ヲ盡シテ、祭祀賓客老人ノ養ヒ等ニハ、已コトヲ不得シテ、時ノ入用ニ從ヒ、殺テ是ヲ用ヒ玉フ、無用ノ時ハ、
新字:人ト畜類トハ、類異ル故ニ、鳥獣共ニ人ヲ懼テ、近ヅクコトナキヲ、聖神ハ私心ナキユヘニ、彼ガ懼ルヽコトヲ見テ、此ヲ心トシ玉フ、夫故ニ、牛ハ此レヲ好ム、羊ハ彼ヲ好ム、豕ハ此ヲ好ム、馬ハ彼ヲ好ム、此ハ強シ、彼ハ弱シ、此ハ厲、彼ハ静ナリト、向フ所ノ物ヲ、自ノ心トシテ、彼ガ気質ノ性ノ儘ヲ能知リ玉ヒテ、人ニ馴伏スルヤウニシ玉フニヨリ、多クノ獣ヲ馴シタガヘテ、後世鬼神ニ諸肉ヲスヽメ、又老人ヲ養フコトヲ教玉フ、然レバ天地ニ生ヲ受ル物ハ、自弱モノヽ、強キ者ニ従フハ、是天之道ナリ、聖神其徳在ニ因テ、無益ノ物ヲ不殺、理ヲ尽シテ、祭祀賓客老人ノ養ヒ等ニハ、已コトヲ不得シテ、時ノ入用ニ従ヒ、殺テ是ヲ用ヒ玉フ、無用ノ時ハ、
書き下し
人と畜類とは、類異なる故に、鳥獣共に人を懼れて、近づくことなきを、聖神は私心なきゆゑに、彼が懼るることを見て、此を心とし給ふ。夫れ故に、牛は此れを好む、羊は彼を好む、豕は此を好む、馬は彼を好む、此は強し、彼は弱し、此は厲し、彼は静かなりと、向かふ所の物を、自らの心として、彼が気質の性の儘を能く知り給ひて、人に馴伏するやうにし給ふにより、多くの獣を馴れしたがへて、後世鬼神に諸肉をすすめ、又老人を養ふことを教へ給ふ。然れば天地に生を受くる物は、自ら弱きものの、強き者に従ふは、是れ天の道なり。聖神其の徳在すに因りて、無益の物を殺さず、理を尽くして、祭祀賓客老人の養ひ等には、已むことを得ずして、時の入用に従ひ、殺して是を用ひ給ふ。無用の時は、
現代語訳
人と獣は種類が違うので、鳥も獣も人を恐れて近づきません。聖人は私心がないので、彼らが恐れることを見て、それを自分の心とされました。だから、牛はこれを好む、羊はあれを好む、豚はこれを、馬はあれを好む、これは強くあれは弱い、これは荒くあれはおとなしい、と向き合う相手をそのまま自分の心として、それぞれの気質の性を知り尽くし、人に馴れるようにされたので、多くの獣を馴らし従え、後の世に神々へ肉を供え、また老人を養うことを教えられたのです。天地に生を受けたものは、弱いものが強いものに従うのが天の道です。聖人にはその徳があるので、無益な殺生はせず、道理を尽くして、祭祀や客のもてなしや老人の養いにはやむを得ず、そのときの必要に応じて殺して用いられました。必要のないときは、
解説

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