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都鄙問答 / 卷之二・或學者、商人ノ學問ヲ譏ノ段

曰、然ラバ商人ノ心得ハ、如何致シテ善カランヤ、答、最前ニ云ル如クニ、一事ニ因テ、萬事ヲ知ルヲ第一トス、一ヲ擧テ云ハヾ、武士タル者、君ノ爲ニ命ヲ惜マバ、士トハ云ハレマジ、商人モ是ヲ知ラバ、我道ハ明カナリ、我身ヲ養ルヽウリ先ヲ、疎末ニセズシテ、眞實ニスレバ、十ガ八ッハ、賣先ノ心ニ合者ナリ、賣先ノ心ニ合ヤウニ、商賣ニ精ヲ入勤ナバ、渡世ニ、何ンゾ案ズルコトノ有ベキ、且第一ニ儉約ヲ守リ、是マデ一貫目ノ入用ヲ、七百目ニテ賄是迄一貫目有リシ利ヲ、九百目アルヤウニスベシ、賣高十貫目ノ內ニテ、利銀百目減少シ、九百目取ント思ヘバ、賣物ガ高直ナリト尤ラルヽ氣遣ナシ、無ユヘニ心易シ、且前ニ云尺違ノ二重ノ利ヲ取ラズ、

新字:曰、然ラバ商人ノ心得ハ、如何致シテ善カランヤ、答、最前ニ云ル如クニ、一事ニ因テ、万事ヲ知ルヲ第一トス、一ヲ挙テ云ハヾ、武士タル者、君ノ為ニ命ヲ惜マバ、士トハ云ハレマジ、商人モ是ヲ知ラバ、我道ハ明カナリ、我身ヲ養ルヽウリ先ヲ、疎末ニセズシテ、真実ニスレバ、十ガ八ッハ、売先ノ心ニ合者ナリ、売先ノ心ニ合ヤウニ、商売ニ精ヲ入勤ナバ、渡世ニ、何ンゾ案ズルコトノ有ベキ、且第一ニ倹約ヲ守リ、是マデ一貫目ノ入用ヲ、七百目ニテ賄是迄一貫目有リシ利ヲ、九百目アルヤウニスベシ、売高十貫目ノ内ニテ、利銀百目減少シ、九百目取ント思ヘバ、売物ガ高直ナリト尤ラルヽ気遣ナシ、無ユヘニ心易シ、且前ニ云尺違ノ二重ノ利ヲ取ラズ、

書き下し

曰く、然らば商人の心得は、如何致して善からんや。答ふ、最前に云へる如くに、一事に因りて、万事を知るを第一とす。一を挙げて云はば、武士たる者、君の為に命を惜しまば、士とは云はれまじ。商人も是を知らば、我が道は明らかなり。我が身を養はるる売り先を、疎末にせずして、真実にすれば、十が八つは、売り先の心に合ふ者なり。売り先の心に合ふやうに、商売に精を入れ勤めなば、渡世に、何んぞ案ずることの有るべき。且つ第一に倹約を守り、是まで一貫目の入用を、七百目にて賄ひ、是迄一貫目有りし利を、九百目あるやうにすべし。売高十貫目の内にて、利銀百目減少し、九百目取らんと思へば、売物が高直なりと尤めらるる気遣ひなし。無きゆゑに心易し。且つ前に云ふ尺違ひの二重の利を取らず、

現代語訳

学者は言いました。「それなら商人の心得は、どうすればよいのですか。」梅岩は答えました。「先に言ったように、一つのことから万事を知ることが第一です。一例を挙げれば、武士たる者が主君のために命を惜しむなら武士とは言えません。商人もこれがわかれば、自分の道ははっきりします。自分を養ってくれる得意先をおろそかにせず、真心をもって接すれば、十のうち八つは得意先の心にかなうものです。得意先の心にかなうように商売に精を出して勤めれば、暮らしに何の心配がありましょう。そのうえ第一に倹約を守り、これまで一貫目かかっていた入用を七百目でまかない、これまで一貫目あった利を九百目になるようにしなさい。売上十貫目のうちで利を百目減らし、九百目を取ろうと思えば、品物が高いと咎められる心配はありません。心配がないから気が楽です。そのうえ、前に言った寸法違いの二重の利を取らず、」

解説

学者の最後の問い「商人の心得は」への答えで、梅岩の経営論が凝縮されています。武士が主君のために命を惜しまないように、商人は自分を養ってくれる売り先(得意先)を真実に大事にせよ。そして倹約で経費を一貫目から七百目に減らし、利は一貫目から九百目に下げよ、と数字で示します。経費を三割削り、利を一割下げれば、値が高いと咎められる心配もない。倹約を、客に安く売るための経営の工夫として語っている点が、単なる節約訓と違うところです。

この章句が説くこと

倹約顧客経費心得

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