都鄙問答 / 卷之二・或學者、商人ノ學問ヲ譏ノ段
自ラ止ベキコトヲ思召、或時臣ヲ召テ曰、見レバ城下ニ、二階作リノ家ヲ立ル者アリ、二階作リノ家ハ、盡ク運上ヲ取ルベシト仰セ有ケレバ、臣是ヲ難義ニ思ヒテ、相談示シ合セ、君ニ申アゲラルヽハ、先達テ、二階作リノ運上ヲ取ルベシト仰付ラレ候コト、昔ヨリ其例ナキコトニ御座候、御免下サレ候ヤウニト申上ラルレバ、君聞召昔ヨリ例ナキコトカヤ、我ハ其例ヲ以テ言付ルコトナリ、彼ノ水入ノ田地ハ、下ニテハ年貢ヲ取リ、果ニテモ運上ヲ取ルナレバ、二階作リノ運上ニ同ジ、例ナキコトニアラズトノ玉フ、ソレヨリ果ニ運上取ルコトヲ止、田地ノ年貢バカリニ成ケルトカヤ、御仁愛及ブ所、實ニ民ヲ子ノ如クニ思召ス政、世ニアリガタキコト哉ト申シキ、
新字:自ラ止ベキコトヲ思召、或時臣ヲ召テ曰、見レバ城下ニ、二階作リノ家ヲ立ル者アリ、二階作リノ家ハ、尽ク運上ヲ取ルベシト仰セ有ケレバ、臣是ヲ難義ニ思ヒテ、相談示シ合セ、君ニ申アゲラルヽハ、先達テ、二階作リノ運上ヲ取ルベシト仰付ラレ候コト、昔ヨリ其例ナキコトニ御座候、御免下サレ候ヤウニト申上ラルレバ、君聞召昔ヨリ例ナキコトカヤ、我ハ其例ヲ以テ言付ルコトナリ、彼ノ水入ノ田地ハ、下ニテハ年貢ヲ取リ、果ニテモ運上ヲ取ルナレバ、二階作リノ運上ニ同ジ、例ナキコトニアラズトノ玉フ、ソレヨリ果ニ運上取ルコトヲ止、田地ノ年貢バカリニ成ケルトカヤ、御仁愛及ブ所、実ニ民ヲ子ノ如クニ思召ス政、世ニアリガタキコト哉ト申シキ、
書き下し
自ら止むべきことを思し召し、或る時臣を召して曰く、見れば城下に、二階作りの家を立つる者あり。二階作りの家は、尽く運上を取るべしと仰せ有りければ、臣是を難儀に思ひて、相談示し合はせ、君に申しあげらるるは、先達て、二階作りの運上を取るべしと仰せ付けられ候こと、昔より其の例なきことに御座候。御免下され候やうにと申し上げらるれば、君聞こし召し、昔より例なきことかや。我は其の例を以て言ひ付くることなり。彼の水入りの田地は、下にては年貢を取り、菓にても運上を取るなれば、二階作りの運上に同じ。例なきことにあらずとのたまふ。それより菓に運上取ることを止め、田地の年貢ばかりに成りけるとかや。御仁愛及ぶ所、実に民を子の如くに思し召す政、世にありがたきこと哉と申しき。
現代語訳
「自分から止めさせる工夫を考え、ある時家臣を呼んで『見れば城下に二階建ての家を建てる者がいる。二階建ての家からはすべて運上を取れ』と命じました。家臣たちはこれを困ったことだと思い、相談して殿様に申し上げました。『先日、二階建てに運上を取れと仰せつけられましたが、昔からそのような例はございません。お取りやめくださいますように。』殿様はお聞きになって『昔から例がないというのか。わたしはその例によって言いつけたのだ。あの水の入った田地は、下の地面で年貢を取り、果樹でも運上を取っているのだから、二階建ての運上と同じだ。例がないわけではない』と言われました。それから果樹の運上をやめ、田地の年貢だけになったそうです。仁愛の行き届いた、まことに民をわが子のように思われる政治で、世にもありがたいことだと人々は申しました。」
解説

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