後世への最大遺物 / 実業
後世への最大遺物(実業)の名句を、現代語訳と実践の解説つきで。全122句。
内村鑑三(一八六一〜一九三〇)が明治二十七年七月、箱根で開かれたキリスト教徒第六夏期学校で二晩にわたって語った講演の記録です。問いは一つだけ——われわれは何をこの世に遺して逝こうか。内村はまず金を挙げます。金を遺すのは立派なことで、卑しむべきではないと正面から言い、そのうえで金を遺せる人は限られていると言う。次に事業を挙げ、大和川の付け替えを引き、事業もまた誰にでもできることではないと言う。次に思想を挙げ、思想を遺せるのは思想家だけだと言う。こうして三つの遺物を順に挙げては、それぞれに「しかしこれは誰にでもできるものではない」と条件を付けていきます。そして最後に、誰にでも遺せる最大の遺物が示されます。勇ましい高尚なる生涯。この講演がいまも読まれるのは、結論の一句のためだけではありません。内村はメリー・ライオンの言葉を引いて、「他の人の行くことを嫌うところへ行け」「他の人の嫌がることをなせ」と語ります。誰も行かない場所へ行き、誰もやりたがらないことをやる。それが生涯を遺物にする道だ、と。金も事業も思想も遺せなかった人が、それでも世に遺せるものがあるという一点で、この講演は聴衆の範囲を超えました。底本は青空文庫(作品ID 519。底本=岩波文庫版、親本=『内村鑑三全集』第一巻 岩波書店一九三二)。内村が日本語で語った講話なので、訳者の権利が絡みません。はしがき(明治三十年)・再版に附する序言(明治三十二年)・改版に附する序(大正十四年)も収めています。師導では全二回を百二十二の章句に収め、底本の百パーセントを覆いました。なお内村の事実誤りを二箇所、解説に注記しました。大和川の付け替えを秀吉の時代としている点(実際は宝永元年、中甚兵衛らによる)と、ジョン・ロックの『人間知性論』に個人と国家の議論を帰している点(それは同年刊の『統治二論』)です。原文は直さず、解説で読み替えを示しています。学派は「実業」に置きました。