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後世への最大遺物 / 第一回・千載青史に列するを得ん

私のようにこんなに弱いもので子供のときから身体が弱うございましたが、こういうような弱い身体であって別に社会に立つ位置もなし、また私を社会に引ッ張ってくれる電信線もございませぬけれども、ドウゾ私も一人の歴史的の人間になって、そうして千載青史に列するを得るくらいの人間になりたいという心がやはり私にも起ったのでございます。その欲望はけっして悪い欲望とは思っていませぬ。私がそのことを父に話し友達に話したときに彼らはたいへん喜んだ。「汝にそれほどの希望があったならば汝の生涯はまことに頼もしい」といって喜んでくれました。ところが不意にキリスト教に接し、通常この国において説かれましたキリスト教の教えを受けたときには、青年のときに持ったところの千載青史に列するを得んというこの欲望が大分なくなってきました。

書き下し

私のようにこんなに弱いもので、子供のときから身体が弱うございましたが、こういうような弱い身体であって、別に社会に立つ位置もなし、また私を社会に引っ張ってくれる電信線もございませぬけれども、どうぞ私も一人の歴史的の人間になって、そうして千載青史に列するを得るくらいの人間になりたいという心が、やはり私にも起ったのでございます。その欲望はけっして悪い欲望とは思っていませぬ。私がそのことを父に話し、友達に話したときに、彼らはたいへん喜んだ。「汝にそれほどの希望があったならば、汝の生涯はまことに頼もしい」といって喜んでくれました。ところが不意にキリスト教に接し、通常この国において説かれましたキリスト教の教えを受けたときには、青年のときに持ったところの、千載青史に列するを得んというこの欲望が、大分なくなってきました。

現代語訳

私のようにこんなに弱い者で、子供のころから身体が弱かったのですが、こういう弱い身体で、社会に立つ地位もなく、私を社会へ引っ張ってくれる伝手もありませんでしたが、それでも、どうか私も一人の歴史的な人間になって、千年の歴史に名を連ねるほどの人間になりたい、という心がやはり起こったのです。その欲望は決して悪い欲望だとは思っていません。そのことを父に話し、友達に話したとき、彼らは大いに喜びました。お前にそれほどの望みがあるなら、お前の生涯は実に頼もしい、と言って喜んでくれた。ところが不意にキリスト教に触れ、普通この国で説かれているキリスト教の教えを受けたとき、青年のころに抱いた、千年の歴史に名を連ねたいというこの欲望が、かなり薄れてきたのです。

解説

名を遺したいという欲を、内村は悪い欲ではないと明言します。ここが本書の分かれ目で、この欲を否定してしまえば話は終わってしまう。弱い身体、地位も伝手もない若者が、それでも歴史に加わりたいと願った。その願いを父も友も喜んだ。ところがキリスト教に接したとたん、この欲が薄れたと言う。信仰が人から志を奪う形になったわけで、講演の前半はこの奪われた志を正しい形で取り戻す作業に充てられます。欲そのものではなく、欲の向け先が問題なのだ、という道筋がここから始まります。

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