師導古典を学びたいすべての人に

後世への最大遺物 / 第二回・誰にも遺すことのできる最大遺物

ここにいたってこういう問題が出てくる。文学者にもなれず学校の先生にもなれなかったならば、それならば私は後世に何をも遺すことはできないかという問題が出てくる。何かほかに事業はないか、私もたびたびそれがために失望に陥ることがある。しからば私には何も遺すものはない。事業家にもなれず、金を溜めることもできず、本を書くこともできず、ものを教えることもできない。ソウすれば私は無用の人間として、平凡の人間として消えてしまわなければならぬか。陸放翁のいったごとく「我死骨即朽、青史亦無名」と嘆じ、この悲嘆の声を発してわれわれが生涯を終るのではないかと思うて失望の極に陥ることがある。しかれども私はそれよりモット大きい、今度は前の三つと違いまして誰にも遺すことのできる最大遺物があると思う。

書き下し

ここにいたって、こういう問題が出てくる。文学者にもなれず、学校の先生にもなれなかったならば、それならば私は後世に何をも遺すことはできないかという問題が出てくる。何かほかに事業はないか、私もたびたびそれがために失望に陥ることがある。しからば私には何も遺すものはない。事業家にもなれず、金を溜めることもできず、本を書くこともできず、ものを教えることもできない。そうすれば私は無用の人間として、平凡の人間として消えてしまわなければならぬか。陸放翁のいったごとく「我死して骨すなわち朽ち、青史にまた名無し」と嘆じ、この悲嘆の声を発してわれわれが生涯を終るのではないかと思うて、失望の極に陥ることがある。しかれども、私はそれよりもっと大きい、今度は前の三つと違いまして、誰にも遺すことのできる最大遺物があると思う。

現代語訳

ここに至って、こういう問題が出てきます。文学者にもなれず、学校の先生にもなれなかったら、私は後世に何も遺せないのか、という問題です。何か他に事業はないか。私もたびたびそのために失望に陥ることがあります。それでは私には何も遺すものがない。事業家にもなれず、金も溜められず、本も書けず、ものも教えられない。そうすると私は無用の人間として、平凡な人間として消えてしまわねばならないのか。陸放翁が言ったように、私が死ねば骨は朽ち、歴史にもまた名は無い、と嘆き、この悲嘆の声をあげて生涯を終えるのではないかと思って、失望の極みに陥ることがあります。しかし私は、それよりもっと大きい、今度は前の三つと違って、誰にでも遺せる最大遺物があると思います。

解説

講演の頂点に入る直前の段です。三つの答えのどれにも届かない人を、内村は無用の人間、平凡の人間と呼んで突き放してみせる。そして陸游の詩句を引いて、名も残らず骨も朽ちる嘆きを引き受けます。この絶望を十分に引き受けたうえで、しかし、と転じる。誰にでも遺せるものがある、と。三つの答えを順に潰してきたのは、この一行を最大の高さから落とすためだったことが分かります。

この章句が説くこと

失望平凡無用遺物転換

関連する章句

この一句を、あなたの毎日に。

古典の教えを、今の状況に当てはめて考えてみる——師導があなたの学びと選択を支えます。

師導で古典を学ぶ
いま登録すると、7日間すべての機能を無料でお試しいただけます。 無料ではじめる