師導古典を学びたいすべての人に

後世への最大遺物 / 第一回・黒人の教育のために使った

ところが旅籠屋の亭主は「泊まるならば自由に泊まれ」というた。しかしピーボディーは、「それではすまぬ」というた。そうして家を見渡したところが、裏に薪がたくさん積んであった。それから「御厄介になる代りに、裏の薪を割らしてください」というて旅籠屋の亭主の承諾を得て、昼過ぎかかって夜まで薪を挽き、これを割り、たいていこのくらいで旅籠賃に足ると思うくらいまで働きまして、そうして後に泊まったということであります。そのピーボディーは彼の一生涯を何に費したかというと、何百万ドルという高は知っておりませぬけれども、金を溜めて、ことに黒人の教育のために使った。今日アメリカにおります黒人がたぶん日本人と同じくらいの社交的程度に達しておりますのは何であるかというに、それはピーボディーのごとき慈善家の金の結果であるといわなければなりません。

書き下し

ところが旅籠屋の亭主は「泊まるならば自由に泊まれ」というた。しかしピーボディーは、「それではすまぬ」というた。そうして家を見渡したところが、裏に薪がたくさん積んであった。それから「御厄介になる代りに、裏の薪を割らしてください」というて旅籠屋の亭主の承諾を得て、昼過ぎかかって夜まで薪を挽き、これを割り、たいていこのくらいで旅籠賃に足ると思うくらいまで働きまして、そうして後に泊まったということであります。そのピーボディーは彼の一生涯を何に費したかというと、何百万ドルという高は知っておりませぬけれども、金を溜めて、ことに黒人の教育のために使った。今日アメリカにおります黒人が、たぶん日本人と同じくらいの社交的程度に達しておりますのは何であるかというに、それはピーボディーのごとき慈善家の金の結果であるといわなければなりません。

現代語訳

ところが宿屋の主人は、泊まるなら自由に泊まれ、と言いました。しかしピーボディーは、それでは済まない、と言う。そして家を見渡すと、裏に薪がたくさん積んであった。それで、お世話になる代わりに裏の薪を割らせてください、と言って主人の承諾を得、昼過ぎから夜まで薪を挽き、割り、これくらいで宿代に足りるだろうと思うまで働いて、それから泊まったということです。そのピーボディーが一生涯を何に費やしたかというと、何百万ドルという額は知りませんが、金を溜めて、とくに黒人の教育のために使いました。今日アメリカにいる黒人が、たぶん日本人と同じくらいの社会的水準に達しているのは何によるかといえば、ピーボディーのような慈善家の金の結果だと言わねばなりません。

解説

薪を割った夜と、黒人教育への寄付が一続きに語られます。内村はピーボディー教育基金を念頭に置いており、南北戦争後の南部の教育に投じられた資金を指しています。金を溜める力と使う力の両方を備えた人として、この講演で最も高く評価される人物です。なお、当時の黒人の境遇についての内村の見立ては、奴隷制廃止後のわずか三十年で教育が進んだという同時代の観察に基づくもので、現代の歴史理解からは楽観に過ぎます。事実の当否より、金が人を育てた実例としてここに置かれています。

この章句が説くこと

慈善教育労働蓄財寄付

関連する章句

この一句を、あなたの毎日に。

古典の教えを、今の状況に当てはめて考えてみる——師導があなたの学びと選択を支えます。

師導で古典を学ぶ
いま登録すると、7日間すべての機能を無料でお試しいただけます。 無料ではじめる