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後世への最大遺物 / 第二回・原稿を友人に貸した

それからしてその本が原稿になってこれを罫紙に書いてしまった。それからしてこれはモウじきに出版するときがくるだろうと思って待っておった。そのときに友人が来ましてカーライルに遇ったところが、カーライルがその話をしたら「実に結構な書物だ、今晩一読を許してもらいたい」といった。そのときにカーライルは自分の書いたものはつまらないものだと思って人の批評を仰ぎたいと思ったから、貸してやった。貸してやるとその友人はこれを家へ持っていった。そうすると友人の友人がやってきて、これを手に取って読んでみて、「これは面白い本だ、一つドウゾ今晩私に読ましてくれ」といった。ソコで友人がいうには「明日の朝早く持ってこい、そうすれば貸してやる」といって貸してやったら、その人はまたこれをその家へ持っていって一所懸命に読んで、暁方まで読んだところが、あしたの事業に妨げがあるというので、その本をば机の上に抛り放しにして床について自分は寝入ってしまった。

書き下し

それからしてその本が原稿になって、これを罫紙に書いてしまった。それからして、これはもうじきに出版するときがくるだろうと思って待っておった。そのときに友人が来まして、カーライルに遇ったところが、カーライルがその話をしたら「実に結構な書物だ、今晩一読を許してもらいたい」といった。そのときにカーライルは、自分の書いたものはつまらないものだと思って人の批評を仰ぎたいと思ったから、貸してやった。貸してやると、その友人はこれを家へ持っていった。そうすると友人の友人がやってきて、これを手に取って読んでみて、「これは面白い本だ、一つどうぞ今晩私に読ましてくれ」といった。そこで友人がいうには「明日の朝早く持ってこい、そうすれば貸してやる」といって貸してやったら、その人はまたこれをその家へ持っていって一所懸命に読んで、暁方まで読んだところが、あしたの事業に妨げがあるというので、その本をば机の上に抛り放しにして、床について自分は寝入ってしまった。

現代語訳

そしてその本が原稿になり、これを罫紙に書き上げた。もうじき出版のときが来るだろうと思って待っていました。そのとき友人が来てカーライルに会い、カーライルがその話をすると、実に結構な書物だ、今晩一読させてくれ、と言った。そのときカーライルは、自分の書いたものはつまらないものだと思って人の批評を仰ぎたかったので、貸してやりました。貸してやると、その友人はこれを家へ持っていった。すると友人の友人がやってきて、手に取って読んでみて、これは面白い本だ、どうか今晩私に読ませてくれ、と言った。そこで友人は、明日の朝早く持ってこい、そうすれば貸してやる、と言って貸してやった。その人はまたこれを自分の家へ持っていって一心に読み、明け方まで読んだところ、翌日の仕事に差し支えるというので、その原稿を机の上に放り出したまま、床について寝入ってしまいました。

解説

災難に至るまでの経緯が、細かく段階を追って語られます。カーライルが友人に貸し、友人がその友人に貸し、その人が机に放り出して寝た。誰も悪意を持っていないのに、原稿は作者から三つも離れた場所に置かれてしまう。伝記では、この友人は経済学者のジョン・スチュアート・ミルとされています。自分の書いたものはつまらないと思って批評を仰ごうとした、という謙虚さが災難の入り口になっているのが、この話の残酷なところです。

この章句が説くこと

原稿友人経緯油断批評

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