忍経 / 処世
忍経(処世)の名句を、現代語訳と実践の解説つきで。全112句。
元の呉亮(杭州の人)が、経書・史書から「忍」にかかわる言葉と逸話を集めた書です。大徳十年(一三〇六)の自序があります。序は「忍とは胸の内の広い器量で、仁者のすることだ。寛と恕の二字でこれを行う」と始まり、韓信が股をくぐり、張良が老人の履を拾った話を引いて、忍を度量の問題として定めます。巻頭に易・書経・左伝・論語・老子・荀子から忍の言葉を並べたあと、「細過掩匿」「唾面自乾」「九世同居」など九十三の題を立てた話が続きます。部下の小さな過ちを覆い隠した曹参、唾を吐きかけられても拭わず自然に乾くのを待てと弟を諭した婁師徳、九代同居の秘訣を問われて「忍」の字を百余り書いて答えた張公芸。漢から宋まで、宰相や地方官が侮辱・誤解・損失をどう受け流したかの実例集で、とくに宋の韓琦・范純仁・王旦の話が多く採られています。後半は家の中の忍(兄弟・親族・召使いへの寛容)と、仏典・詩・諺の忍の言葉で結ばれます。ここで言う忍は、理不尽に黙って耐えることではありません。怒りに任せて事を大きくしない自制と、人の小さな過ちを許す器量のことで、序も「官に当たっては暴怒を戒めとし、家に居ては謙和で身を保つ」と言っています。師導の解説もこの線で書いています。底本は維基文庫『忍經』です。校訂が済んでいない本文なので、国学典籍網の簡体字本と字の並びで突き合わせ(一致率〇・九六六)、簡体字からの変換で生じた「嗬」を「呵」に、題の「竣折」を本文の「峻折」に直しました。維基文庫本の末尾に付いている憨山大師『醒世詠』は別の作品なので収めていません。このほかにも、呂大防を「呂不防」とするなど、証人と共通する誤字・脱字が底本に残っています。証人が立たないので原文は底本のまま残し、現代語訳の中で正しい意味を補いました。師導では序から結びまでを百十二の章句に収め、本文一万二千七百四字の百パーセントを覆いました。段落の多い題(謝罪敦睦・王龍舒勧誡)は、いくつかの章句に分けています。学派は菜根譚・呻吟語と同じ「処世」に置いています。