忍経 / 潛卷授之
韓魏公在魏府,僚屬路拯者就案呈有司事,而狀尾忘書名。公即以袖覆之,仰首與語,稍稍潛卷,從容以授之。
新字:韓魏公在魏府,僚属路拯者就案呈有司事,而状尾忘書名。公即以袖覆之,仰首与語,稍稍潜巻,従容以授之。
書き下し
韓魏公魏府に在りしとき、僚屬の路拯なる者、案に就きて有司の事を呈するに、狀の尾に名を書するを忘る。公即ち袖を以て之を覆ひ、首を仰ぎて與に語り、稍稍潛かに卷きて、從容として以て之を授く。
現代語訳
韓魏公(北宋の韓琦)が魏府(大名府)にいたとき、属官の路拯という者が机のところへ来て役所の事務を差し出しましたが、書類の末尾に名前を書くのを忘れていました。公はすぐに袖でそこを覆い、顔を上げて彼と話しながら、少しずつそっと書類を巻き、落ち着いた様子で彼に返しました。
解説
部下の小さな手落ちに気づいたとき、恥をかかせずに直させた韓琦の振る舞いです。署名の漏れを袖で隠し、話しかけながら書類を巻いて返すだけで、周りには何も気づかせません。路拯は受け取ってから自分で漏れに気づき、黙って直せたはずです。指摘そのものは必要ですが、人前で言うかどうか、どういう形で伝えるかは選べます。叱らないことと見逃すことは違い、ここでは誤りはきちんと本人のもとへ戻されています。職場でも、同僚の書類の誤りを会議の場で読み上げるのではなく、そっと返す配慮が、相手の面目と仕事の質の両方を守ります。
この章句が説くこと
恕配慮面目部下韓琦
関連する章句
-
論語・衛霊公篇師冕見ゆ。階に及べば、子曰く、「階なり。」席に及べば、子曰く、「席なり。」皆坐すれば、子之に告げて曰く、「某は斯に在り、某は斯に在り。」師冕出づ。子張問いて曰く、「師と言うの道か。」子曰く、「然り、固より師を相くるの道なり。」
-
『呻吟語』内篇・應務・失意の人に對して矜る勿かれ憂ふる人に對して樂しむ勿かれ、哭する人に對して笑ふ勿かれ、失意の人に對して矜る勿かれ。
-
司馬法・仁本その老幼を見ては、奉(ほう)じて帰し、傷つくる勿(な)かれ。壮者に遇うと雖も、校(きそ)わざれば敵とする勿れ。
-
説苑・雜言孔子将に行かんとするに、蓋無し。弟子曰く、「子夏に蓋有り、以て行く可し」と。孔子曰く、「商の人と為りや、甚だ財に短し。吾聞く、人と交わる者は、其の長ずる所を推し、其の短なる所を違く、故に能く久長なりと」と。
-
『呻吟語』内篇・應務・其の跡を泯す其の私を恤へ、其の願ひを濟し、其の名を成し、其の跡を泯すは、體悉の至りなり。人を感ぜしむること心骨に淪む。故に言を察し色を觀るは、學の粗なり。情に達し意を會するは、學の精なり。
-
孟子・盡心章句下孟子曰く、「布縷の征・粟米の征・力役の征有り。君子は其の一を用いて、其の二を緩くす。其の二を用うれば、民に殍有り。其の三を用うれば、父子離る。」