忍経 / 射牛無怪
隋吏部尚書牛弘,弟弼好酒而酗,嘗醉射弘駕車牛。弘還宅,其妻迎曰:「叔射殺牛。」弘聞無所怪,直答曰:「作脯。」坐定,其妻又曰:「叔忽射殺牛,大是異事。」弘曰:「已知。」顏色自若,讀書不輟。
新字:隋吏部尚書牛弘,弟弼好酒而酗,嘗酔射弘駕車牛。弘還宅,其妻迎曰:「叔射殺牛。」弘聞無所怪,直答曰:「作脯。」坐定,其妻又曰:「叔忽射殺牛,大是異事。」弘曰:「已知。」顔色自若,読書不輟。
書き下し
隋の吏部尚書牛弘、弟弼、酒を好みて酗ふ。嘗て醉ひて弘の駕車の牛を射る。弘宅に還る。其の妻迎へて曰く、「叔、牛を射殺せり」と。弘聞きて怪しむ所無く、直ちに答へて曰く、「脯と作せ」と。坐定まり、其の妻又た曰く、「叔忽ち牛を射殺す、大いに是れ異事なり」と。弘曰く、「已に知る」と。顏色自若として、書を讀みて輟めず。
現代語訳
隋の吏部尚書(人事を司る長官)牛弘の弟の牛弼は酒好きで、酔うと乱暴になりました。あるとき酔って、牛弘の車を引く牛を射殺しました。牛弘が家に帰ると、妻が出迎えて「義弟さんが牛を射殺しました」と言いました。牛弘は聞いても何ら怪しむ様子もなく、あっさり「干し肉にしなさい」と答えました。座に落ち着くと、妻はまた「義弟さんがいきなり牛を射殺したのです。とんでもないことですよ」と言いました。牛弘は「もう知っている」と言い、顔色も変えず、読書をやめませんでした。
解説
隋の牛弘の逸話で、『隋書』牛弘伝に見える話です。酒癖の悪い弟が自分の車を引く牛を射殺したと聞いても、牛弘は驚かず、干し肉にせよと答えただけでした。妻が重ねて騒ぎ立てても、もう知っていると言って読書を続けました。済んでしまったことを蒸し返して騒いでも、牛は戻らず、兄弟の仲が裂けるだけです。牛弘は弟を責め立てず、妻の怒りにも油を注がないことで、家の中の争いを未然に防ぎました。身内の失態に家族が騒ぎ立てるとき、誰か一人が落ち着いていれば、事は大きくならずにすみます。取り返しのつかないことには、次の手だけを淡々と打つのが賢明なのでしょう。
この章句が説くこと
忍平静家族牛弘修身
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