忍経 / 盤碎,色不少吝
裴行儉初不都支遮匐,獲鑲環寶,不貲。番酋將士觀焉。行儉因奢,遍出示坐者。有瑪瑙盤二尺,文采粲然。軍吏趨跌,盤碎,惶懼,叩頭流血。行儉笑曰:「爾非故也。」色不少吝。
新字:裴行倹初不都支遮匐,獲鑲環宝,不貲。番酋将士観焉。行倹因奢,遍出示坐者。有瑪瑙盤二尺,文采粲然。軍吏趨跌,盤砕,惶懼,叩頭流血。行倹笑曰:「爾非故也。」色不少吝。
書き下し
裴行儉、初め都支・遮匐を不(平)げ、鑲環の寶を獲ること、貲られず。番酋・將士焉を觀んとす。行儉因りて奢(宴)し、遍く出して坐する者に示す。瑪瑙の盤の二尺なる有り、文采粲然たり。軍吏趨りて跌き、盤碎く。惶懼し、叩頭して流血す。行儉笑ひて曰く、「爾故にするに非ざるなり」と。色少しも吝まず。
現代語訳
裴行倹は、はじめ都支と遮匐(西域の突厥の首領)を平定したとき、計り知れないほどの珍しい宝物を手に入れました。異民族の首長や将兵たちがそれを見たがりました。裴行倹はそこで宴を開き、宝物をすべて取り出して居並ぶ人々に見せました。その中に直径二尺の瑪瑙の盆があり、模様が美しく輝いていました。ところが軍吏が急いで運ぶ途中につまずき、盆は砕けてしまいました。軍吏は恐れおののき、額を地に打ちつけて血を流しました。裴行倹は笑って「わざとしたのではないのだから」と言い、少しも惜しむ顔を見せませんでした。
解説
前にも出た唐の名将裴行倹の、もう一つの逸話で、『新唐書』裴行倹伝に見えます。西域の平定で得た宝物の中でも、ひときわ見事な瑪瑙の盆を、部下が転んで割ってしまいました。部下は額から血を流して詫びましたが、裴行倹は笑って、わざとではないと許しました。わざとか過失かを分けて見る目が、この話の要です。わざとでない失敗を厳しく責めても、壊れたものは戻らず、人の心が萎縮するだけです。大切な物を壊された瞬間こそ、惜しむ気持ちより人を見る余裕が試されます。故意と過失を分けて扱うことは、今日の職場でも公正な叱り方の基本と言えるでしょう。
この章句が説くこと
忍過失寛容裴行倹器量
関連する章句
-
『呻吟語』内篇・問學・六合を含むこと一粒の如し學者は只だ是れ氣盈つれば、便ち長進せず。六合を含むこと一粒の如く、之を覓むるも見えず。一粒を六合に吐き、之を出だして窮まらず。大人と謂ふ可し。而して自ら處すること庸人の如く、初めより自ら表異せず。退讓すること空夫の如く、初めより自ら滿足せず。掌を抵ち臂を攘げて世に人無しと視るは、之を善を以て人を服すと謂はば則ち可ならんや。
-
『十善法語』巻第六・不惡口戒秦ノ始皇カ古書ヲ燔キ。儒者ヲ坑ニシ。阿房宮ヲ造営セシ。晋ノ武帝カ羊車ニ乗テ後宮ニ遊ヒシ類。心ノ憍慢ヨリ起ル。実ヲ剋シテ云ハ。ミナ小器量ニ摂ス。若万民ヲ以テ子トセハ。儒者モ邪魔ニハナラヌ。天下ヲ以テ家トセハ。阿房宮ハ狭小ナル造営シヤ。天地陰陽ノ和合ヲ楽ハ。別ニ多人ヲ後宮ニ閉置ニハ及ヌシヤ。誠ノ大丈夫ハ此ニ異ナル所有ヘキシヤ。
-
歎異抄・第十二条たとい自余の教法は勝れたりとも、自らがためには器量及ばざれば、つとめがたし。 我も人も生死を離れんことこそ諸仏の御本意にておわしませば、御妨げあるべからず」とて、にくい気せずは、誰の人かありて仇をなすべきや。
-
『呻吟語』内篇・問學・只だ是れ器度小なり學者の大病痛は、只だ是れ器度小なり。
-
人物志・接識故に一流の人は、能く一流の善を識る。二流の人は、能く二流の美を識る。
-
『呻吟語』内篇・存心・只だ大公なれば、便ち是れ天下を包涵する氣象只だ大公なれば、便ち是れ天下を包涵する氣象なり。