忍経 / 詆短遜謝
傅獻簡公言李公沆秉鈞,日有狂生叩馬獻書,歷詆其短。李遜謝曰:「俟歸家,當得詳覽。」狂生遂發訕怒,隨君馬後,肆言曰:「居大位不能康濟天下,又不能引退,久妨賢路,寧不愧於心乎?」公但於馬上踧踖再三,曰:「屢求退,以主上未賜允。終無忤也。」
新字:傅献簡公言李公沆秉鈞,日有狂生叩馬献書,歴詆其短。李遜謝曰:「俟帰家,当得詳覧。」狂生遂発訕怒,随君馬後,肆言曰:「居大位不能康済天下,又不能引退,久妨賢路,寧不愧於心乎?」公但於馬上踧踖再三,曰:「屡求退,以主上未賜允。終無忤也。」
書き下し
傅獻簡公言ふ、李公沆鈞を秉るとき、日に狂生有り、馬を叩きて書を獻じ、歷く其の短を詆る。李遜謝して曰く、「家に歸るを俟ちて、當に詳覽することを得べし」と。狂生遂に訕怒を發し、君の馬後に隨ひ、肆に言ひて曰く、「大位に居りて天下を康濟すること能はず、又た引退すること能はず、久しく賢路を妨ぐ、寧ぞ心に愧ぢざらんや」と。公但だ馬上に於いて踧踖すること再三、曰く、「屢々退かんことを求むるも、主上の未だ允を賜はざるを以てなり」と。終に忤ふこと無きなり。
現代語訳
傅献簡公(北宋の傅堯兪)の話では、李公沆(北宋の宰相李沆)が政権を握っていたころ、ある日、ひとりの狂った書生が馬の前に立ちふさがって書を差し出し、李沆の短所をことごとくそしりました。李沆はへりくだって詫び、「家に帰ってから、詳しく読ませていただきます」と言いました。書生はとうとう罵り怒り出し、馬の後をついて来て、好き放題に言いました。「高い地位にいながら天下を救い治めることができず、かといって退くこともできず、長いあいだ賢者の進む道をふさいでいる。心に恥じないのか」。李沆はただ馬上で何度も恐縮して身をかがめ、「たびたび退くことを願い出ているのですが、陛下のお許しがまだないのです」と言いました。最後まで逆らうことはありませんでした。
解説
北宋の宰相李沆の逸話で、傅堯兪が伝えた話です。李沆は聖相とも呼ばれた人で、落ち着いた人柄で知られます。道端で書生に面罵されても、宰相の権威で退けることはせず、へりくだって詫び、後で読むと答えました。さらに罵声を浴びせられても、辞任を願い出ているが許しが出ないのだと、正直に事情を述べただけでした。権力者が批判に耳をふさがず、激しい言葉にも身を低くして応じる姿勢は、今日でも見習うべきものです。もちろん、罵声を浴びせる側を正しいとする話ではありません。立場が上の人ほど、乱暴な批判の中にも聞くべきものがないかを探す余裕を持ちたいものです。
この章句が説くこと
忍批判李沆謙虚度量
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