忍経 / 唾面自乾
婁師德深沉有度量,其弟除代州刺史,將行,師德曰:「吾輔位宰相,汝復為州牧,榮寵過盛,人所嫉也,將何求以自免?」弟長跪曰:「自今雖有人唾某面,某拭之而已。庶不為兄憂。」師德愀然曰:「此所以為吾憂也。人唾汝面,怒汝也,汝拭之,乃逆其意,所以重其怒。不拭自乾,當笑而受之。」
新字:婁師徳深沈有度量,其弟除代州刺史,将行,師徳曰:「吾輔位宰相,汝復為州牧,栄寵過盛,人所嫉也,将何求以自免?」弟長跪曰:「自今雖有人唾某面,某拭之而已。庶不為兄憂。」師徳愀然曰:「此所以為吾憂也。人唾汝面,怒汝也,汝拭之,乃逆其意,所以重其怒。不拭自乾,当笑而受之。」
書き下し
婁師德は深沈にして度量有り。其の弟代州刺史に除せられ、將に行かんとす。師德曰く、「吾宰相に輔位し、汝復た州牧と爲る。榮寵過盛なるは、人の嫉む所なり。將に何を求めて以て自ら免れんとするか」と。弟長跪して曰く、「今より人某の面に唾すること有りと雖も、某之を拭ふのみ。庶はくは兄の憂ひと爲らざらん」と。師德愀然として曰く、「此れ吾が憂ひと爲る所以なり。人汝の面に唾するは、汝を怒ればなり。汝之を拭ふは、乃ち其の意に逆らふなり。其の怒りを重ぬる所以なり。拭はずして自ら乾かしめ、當に笑ひて之を受くべし」と。
現代語訳
婁師徳(唐の宰相)は落ち着いて思慮深く、度量の大きな人でした。弟が代州の刺史に任じられ、赴任しようとしたとき、師徳は言いました。「私は宰相として政治を補佐し、お前もまた州の長官となった。栄誉と寵愛が盛んすぎるのは、人に妬まれるもとだ。どうやって身を守るつもりか」。弟はひざまずいて言いました。「これからは、たとえ人が私の顔に唾を吐きかけても、私はそれを拭うだけにします。兄上に心配をかけないようにいたします」。師徳は顔を曇らせて言いました。「それこそが私の心配の種なのだ。人がお前の顔に唾を吐くのは、お前に怒っているからだ。お前がそれを拭えば、その人の気持ちに逆らうことになり、怒りをいっそう重くする。拭わずに自然に乾くにまかせ、笑って受けるべきなのだ」。
解説
この章句が説くこと
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葉隠・聞書第一何某(なにがし)は気性者(きしょうもの)なり、何某の前にてかような儀を申し候(そうろう)」と話す人あり。それが面(つら)に似合わぬ言い分なり。曲者(くせもの)と言われたきまでなり。卑(いや)しき位なり。青き所がある人と見えたり。そのように、人の前にて物を言うは槍持(やりもち)中間(ちゅうげん)の出会い同然にて賤(いや)しき事なり。「侍たる者は、まず礼儀正しきとこそ美しけれ」と。扇・鼻紙・料紙・臥具(がぐ)などは、少しよき物にても苦しからざるなり。居宅・衣裳・諸道具など面(つら)に似合わぬ事する人多し。
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葉隠・聞書第一少し理窟(りくつ)などを合点(がてん)したる時は、頓(やが)て高慢(こうまん)して、我今の世間に合はぬ生附(うまれつき)などと云ひて、我が上(うえ)あらじと思ふは、天罰あるべきなり。何様(いかよう)の能事(のうじ)持ちたりとも、人の好かぬ者は役に立たず。御用に立つ事、奉公する事には好きて、随分(ずいぶん)へりくだり、朋輩(ほうばい)の下に居るを悦ぶ心入(こころいれ)の者は、諸人(しょにん)嫌はぬものなり。「さてさて振(ふ)りある秘蔵(ひぞう)の者共(ものども)。」
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老子・第8章上善は水の若し。水は善く万物を利して争わず、衆人の悪む所に処る。故に道に幾し。居は地を善しとし、心は淵を善しとし、与は仁を善しとし、言は信を善しとし、正は治を善しとし、事は能を善しとし、動は時を善しとす。夫れ唯だ争わず、故に尤め無し。
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史記 老子韓非列伝老子は、楚の苦県厲郷曲仁里の人なり。姓は李氏、名は耳、字は耼、周の守藏室の史なり。孔子、周に適き、将に礼を老子に問はんとす。老子曰く、「子の言ふ所の者は、其の人と骨と皆已に朽つ。独り其の言在るのみ。且つ君子は其の時を得ば則ち駕し、其の時を得ざれば則ち蓬累して行く。吾之を聞く、良賈は深く藏して虚しきが若く、君子は盛徳あるも容貌は愚なるが若し、と。子の驕気と多欲、態色と淫志を去れ。是れ皆子の身に益無し。吾が以て子に告ぐる所は、是くの若きのみ」と。孔子去り、弟子に謂ひて曰く、「鳥は、吾其の能く飛ぶを知る。魚は、吾其の能く游ぐを知る。獣は、吾其の能く走るを知る。走る者には以て罔を為す可く、游ぐ者には以て綸を為す可く、飛ぶ者には以て矰を為す可し。龍に至りては、吾其の風雲に乗りて天に上るを知る能はず。吾今日老子を見るに、其れ猶ほ龍のごときか」と。
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尚書・仲虺之誥自ら師を得る者は王たり、人(ひと)己(おのれ)に若(し)く莫(な)しと謂(い)う者は亡ぶ。