忍経 / 兄弟訟田,至於失敗
清河百姓乙普明兄弟,爭田積年不斷。太守蘇瓊諭之曰:「天下難得者,兄弟;易求得,田地。假令得田地,失兄弟心如何?」普明兄弟叩頭乞外更思,分異十年遂還同住。
新字:清河百姓乙普明兄弟,争田積年不断。太守蘇瓊諭之曰:「天下難得者,兄弟;易求得,田地。仮令得田地,失兄弟心如何?」普明兄弟叩頭乞外更思,分異十年遂還同住。
書き下し
清河の百姓乙普明兄弟、田を爭ひて積年斷ぜず。太守蘇瓊之に諭して曰く「天下に得難き者は兄弟、求め得易きは田地なり。假令田地を得るも、兄弟の心を失はば如何」と。普明兄弟叩頭して外に更に思はんことを乞ひ、分異すること十年にして遂に還りて同住す。
現代語訳
清河の民、乙普明の兄弟は田地を争い、何年も決着がつきませんでした。太守の蘇瓊(北斉の人)は彼らを諭して言いました。「天下で得がたいものは兄弟であり、求めやすいものは田地だ。たとえ田地を手に入れても、兄弟の心を失ったらどうするのか」。普明兄弟は額を地につけて、退出してからよく考え直したいと願い出ました。そして別々に暮らして十年になっていたのが、ついに戻って一緒に住むようになりました。
解説
兄弟の田地争いを、判決ではなく一言の問いで解いた話です。蘇瓊は、田地はまた手に入るが兄弟はかけがえがない、と比べてみせました。争いの渦中にいる人は、勝つことそのものが目的になり、何を失いつつあるかが見えなくなります。蘇瓊の言葉は、その見えなくなったものを目の前に置き直したのです。兄弟は十年の別居を終えて同じ家に戻りました。相続や家業をめぐる身内の争いは今も絶えません。手に入れようとしているものと、それと引き換えに失うものを並べてみることが、こじれた関係をほどく第一歩になります。
この章句が説くこと
忍兄弟和睦家族蘇瓊
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