鬼谷子 / 縦横家
鬼谷子(縦横家)の名句を、現代語訳と実践の解説つきで。全108句。
戦国時代、鬼谷という谷に隠れ住んだと伝わる人物に帰される、説得と交渉の技術書です。合従連衡で天下を動かした蘇秦と張儀が、この人に師事したと伝えられます。『戦国策』が縦横家の残した事例集だとすれば、こちらはその方法を書いた本で、二冊で対になります。扱うのは、相手をどう観るか、いつ開いていつ閉じるか、何をどこまで話すか、どこで決めるか——会議室でも交渉の席でも、いま起きていることばかりです。冒頭の捭闔篇は「開くと閉じる」から始まります。情報を出すのは伝えるためだけでなく引き出すためでもあり、伏せるのは遠ざけるためだけでなく囲い込むためでもある。同じ動作に四通りの狙いがあると説きます。反応篇の「知るの始めは己、自ら知りて後に人を知る」は、相手を読む技術書の中心に自己認識を据えた一句。揣篇は相手を測る十二の項目を並べ、摩篇は「触れて、確かめて、去れ」と教えます。謀篇の「事は人を制するを貴び、人に制せらるるを貴ばず」、権篇の「衆口は金を爍かす」、そして損兌篇の「水を千仞の堤に決するがごとし」——決断とは押すことではなく、そうならざるをえないところまで運んで手を離すことだ、という一句に至ります。この書は千数百年にわたって警戒されてきました。柳宗元は「険しく薄く、乱世を惑わす」と評しています。実際、人を恐れさせ惑わす手口も、強い者どうしを争わせて共倒れさせる術も、隠さずに書かれています。師導ではそれらを削らずに収めました。同じ技術は、仕掛けるためだけでなく、仕掛けられたときに気づくためにも要るからです。そして全篇の結びで、著者自身がこう書いています。この術が小人の手に渡れば家を破り国を奪うところまで行く。義によって家を守り、道によって国を守れるのは、賢く知恵のある者だけである、と。同じ技術が奪うためにも救うためにも使え、どちらに使うかは技術の外側で決まる。そこがこの書の落ち着き先です。師導では全三巻十五篇二十一段を百八の章句に収め、底本九千六百四字の百パーセントを覆いました。