秘本玉くしげ / 国学
秘本玉くしげ(国学)の名句を、現代語訳と実践の解説つきで。全24句。
本居宣長が紀州藩主・徳川治貞に献じた政治建言の書です。天明七年(一七八七)ごろの成立。公開用に書かれた『玉くしげ』の続編にあたり、こちらは藩主だけに見せる前提で、当時の政治の実態に踏みこんで具体的に論じています。国学者としての宣長を知る人ほど、この書の内容には驚くかもしれません。扱われるのは、判断の質、格式の肥大、年貢の重さ、百姓一揆、貨幣の流通、新法の是非、賄賂、訴訟の遅延、刑罰と冤罪——ほとんどが実務の話です。なかでも一揆論は徹底しており、「いづれも下の非はなくして、皆上の非なるより起れり」と言い切り、処刑される首謀者が身代わりであることを上も知りながら「定法だに立ばよき」として済ませる実態を暴き、「此方よりきびしくあしらふは、以後又かの方よりも、いよいよきびしくかかれと教ふるやうの道理」と、取り締まりの強化が相手の激化を招く構造を指摘します。「身分を重重敷するは、奢りとは別の事の樣なれ共、是即大なる奢り也」「十に六七はみな省きてもよき事のみ也」といった組織論も、そのまま今日に通じます。唐の太宗『帝範』や『貞観政要』と並べて読める、日本側の帝王学の一冊です。底本は国立国会図書館蔵の吉川弘文館版『本居宣長全集』第六(大正十五年)で、校訂者の保護期間は満了しています。原本は句読点のない木活字版のため、本文全三万五千余字から二十四箇所・約六千三百字を抜き出し、句読点を補って収めました。字は底本のまま一字も変えておらず、句読点を除くと底本と完全に一致することを検証しています。抜粋と章題は本サイトの便宜的なもので、原典にはありません。