秘本玉くしげ / 上 上の恵み
さて今の世には、百姓の方にも年貢のすぢに正直ならざることをかまへて、これを免れんとする者もあることなれ共、それも畢竟は、上よりのいたはりなく、あしらひの惡さに、下よりも左樣のかまへをばする也。上の御めぐみだに行とどけば、下は速に感じ奉るものぞかし。
新字:さて今の世には、百姓の方にも年貢のすぢに正直ならざることをかまへて、これを免れんとする者もあることなれ共、それも畢竟は、上よりのいたはりなく、あしらひの悪さに、下よりも左様のかまへをばする也。上の御めぐみだに行とどけば、下は速に感じ奉るものぞかし。
書き下し
さて今の世には、百姓の方にも年貢のすぢに正直ならざることをかまへて、これを免れんとする者もあることなれ共、それも畢竟は、上よりのいたはりなく、あしらひの悪さに、下よりも左様のかまへをばする也。上の御めぐみだに行とどけば、下は速に感じ奉るものぞかし。
現代語訳
さて今の世には、百姓の側にも年貢の筋に正直でないことを企てて、これを免れようとする者もあることだが、それも結局は、上からのいたわりがなく、扱いが悪いために、下からもそのような企てをするのである。上の恵みさえ行き届けば、下はすみやかに感じ入り申し上げるものである。
解説
下の不正をどう見るか、という一段である。百姓の側にも年貢をごまかす者がいる。宣長はその事実を認めたうえで、原因を上に返す。「上よりのいたはりなく、あしらひの惡さに、下よりも左樣のかまへをばする也」。扱いが悪いから、下も企てる、と。下の不正を下の性質の問題にしない。そして「上の御めぐみだに行とどけば、下は速に感じ奉るものぞかし」——恵みが届けば、下はすぐに応じる。「速に」の一語が効いている。時間がかかるとは言っていない。扱いを変えれば、反応はすぐ返るという見方である。不正が続く現場を前にしたとき、監視を強めるか扱いを改めるかで、打つ手はまったく変わる。
この章句が説くこと
上のいたはりあしらひの悪さ上の御恵み不正の原因