秘本玉くしげ / 下 訴訟は早く
公事訴訟願ひ事御咎め筋などの類、早く濟してもよきことは、隨分なるべきだけ早く濟すべき也。なほざりにして、一日もすておくべきにあらず。下にては惣じて、上へかかりたるすぢの事は、いささかの事にても相濟までは甚心勞する事にて、殊に貧しき者などは家業にも障り、甚迷惑する事なるに、上にかまふ事なければとて、なほざりにすて置て長引するは、いと心なき事也。
新字:公事訴訟願ひ事御咎め筋などの類、早く済してもよきことは、随分なるべきだけ早く済すべき也。なほざりにして、一日もすておくべきにあらず。下にては惣じて、上へかかりたるすぢの事は、いささかの事にても相済までは甚心労する事にて、殊に貧しき者などは家業にも障り、甚迷惑する事なるに、上にかまふ事なければとて、なほざりにすて置て長引するは、いと心なき事也。
書き下し
公事訴訟願ひ事御咎め筋などの類、早く済してもよきことは、随分なるべきだけ早く済すべき也。なほざりにして、一日もすておくべきにあらず。下にては惣じて、上へかかりたるすぢの事は、いささかの事にても相済までは甚心労する事にて、殊に貧しき者などは家業にも障り、甚迷惑する事なるに、上にかまふ事なければとて、なほざりにすて置て長引するは、いと心なき事也。
現代語訳
訴訟、願い事、咎めの筋などの類は、早く済ませてもよいことは、できるかぎり早く済ませるべきである。なおざりにして、一日でも捨て置くべきではない。下の者にとっては総じて、上にかかった筋の事は、わずかなことであっても済むまでは甚だ心労することで、ことに貧しい者などは家業にも差し障り、甚だ迷惑することであるのに、上には差し支えがないからといって、なおざりに捨て置いて長引かせるのは、まったく心ない事である。
解説
この章句が説くこと
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『秘本玉くしげ』上 大切にしすぎる害すべての事を余りに大切に重重敷する時は、只無益の費、無益の扱ひのみ多くして、却て其本意の実をば失ひ、表向計りになり、麁末に取扱ふよりは結句遥に劣る事も多く、又却て手行の甚悪き事多し。譬へば、直に御前へ達してもよき事をも、爰の役人の手を経、かしこの役所へ伺ひ抔、彼此とする故に、無益の人手間かかり、紙筆の費抔のみ有て、却て急ぎの御用の弁じ抔は滞りて、何の益はなし。万の事是に准じて知べし。
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『秘本玉くしげ』下 そろそろと押へるされば害ながらも俄に禁じがたき事はつねづねに心をつけて、随分長ぜぬやうにはからひ、いつとなくそろそろとこれを押へて、おのづからと止む時節をまつより外なし。万の事は日日に増長することも、思ひの外に又いつとなく衰へゆく時節もあるものなれば、かならず事を急にしてしそんずまじき也。又国のため民のために利益ある事を考へ出して、これを行はんとするも同じ事にて、たとひ利益あるすぢも、新規に俄にこれを行はんとすれば、人も帰服しがたく、又却てそこなひも出来ることあるもの也。とかく人は、久しく馴来りたる事は、少少勝手あしき事も其分にて安じ居るもの也。益ある事も、新規なる事は煩はしく思ふならひなれば、有来りたる事は少少はあしくとも、大抵のことはそのままにて有べし。新規の事は、大抵はまづはせぬがよき也。
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『秘本玉くしげ』上 役人も重く罰すさればたとひいささかの事にもせよ、此すぢあらば、その起るところの本を委細によくよく吟味して是非をただし、下の非あらば、その張本のともがらをおもく刑し玉ふべきは勿論の事、又上に非あらば、その非を行へる役人を重く罰し玉ふべき也。
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『秘本玉くしげ』下 権門の威又訴訟にかぎらず、万の事に権門がかりのすぢは、取さばく役人の甚迷惑なるものにて、これ大なる国政の妨となる事あり。されば何事によらず、権門の威を以て押す事は、又下々まで主人に権威をふるひて無理非道のふるまひをすまじき旨、常にきびしく制せらるべく、又諸役人いささかも権門を憚りて不正の判断などをなすまじき旨をも命ぜらるべき也。此事は古より異国にも本朝にもつねにあるならひにて、誰もなく合点はしたることなれども、とかく止がたきもの也。
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『秘本玉くしげ』下 上下は遠ししかれ共、上と下とは甚遠ければ、その吟味もとかくに行とどきかぬる事なれば、
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『秘本玉くしげ』上 上の恵みさて今の世には、百姓の方にも年貢のすぢに正直ならざることをかまへて、これを免れんとする者もあることなれ共、それも畢竟は、上よりのいたはりなく、あしらひの悪さに、下よりも左様のかまへをばする也。上の御めぐみだに行とどけば、下は速に感じ奉るものぞかし。
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