山鹿語類 / 士道附錄・先生子弟警戒
平生之動容周旋。各道之所存也。不可忽。士唯思軍戰之進退。而不詳於平日之禮容。是非君子之勇也。久危坐。則足痿痺。而急難奔走。憚寒凍而懷手。閉寒凍而龜手。共難急用。手足之擧動于不仁。則武之用卒缺。然手足之擧動放逸。則背禮容。此間專在練手足肆身躰也。
新字:平生之動容周旋。各道之所存也。不可忽。士唯思軍戦之進退。而不詳於平日之礼容。是非君子之勇也。久危坐。則足痿痺。而急難奔走。憚寒凍而懐手。閉寒凍而亀手。共難急用。手足之挙動于不仁。則武之用卒欠。然手足之挙動放逸。則背礼容。此間専在練手足肆身体也。
書き下し
平生の動容周旋は、各々道の存する所なり。忽にすべからず。士唯だ軍戦の進退を思ひて、平日の礼容に詳らかならざるは、是れ君子の勇に非ざるなり。久しく危坐すれば、則ち足痿痺して、急難に奔走す。寒凍を憚りて手を懐にし、寒凍に閉ぢて手を亀む。共に難急の用に、手足の挙動不仁なれば、則ち武の用卒に欠く。然れども手足の挙動放逸なれば、則ち礼容に背く。此の間、専ら手足を練り身体を肆ふに在り。
現代語訳
ふだんの立ち居振る舞いや応対には、それぞれ道が宿っている。おろそかにしてはならない。武士がただ戦の進退ばかりを考えて、平日の礼にかなった振る舞いに詳しくないのは、君子の勇ではない。長く正座していると足がしびれたまま、急な難事に駆けつけることになる。寒さを嫌って懐に手を入れ、寒さに閉じこもって手がかじかむ。どちらも急場の用に際して手足の動きがしびれて利かなければ、武の働きはたちまち欠けてしまう。とはいえ手足の動きが勝手気ままであれば、礼にかなった振る舞いに背く。その間をどうするかは、もっぱら手足を鍛え身体を習練することにかかっている。
解説
この章句が説くこと
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『武士道』第四章 勇・敢爲堅忍の精神・生くべき時に生き死すべき時に死すされど生くべき時に生き、死すべき時に死するは真の勇なり』と。又た泰西の識者の、肉体の勇と道徳の勇とを区別するが如きは、我国人も亦たつとに之を為す。いやしくも士林に在る者は、小少より既に大勇と匹夫の勇とを弁知せざるものなかりしならん。剛毅、大胆、自若、勇猛の徳性は、青年武士の嚮往する所にして、彼等は実例に則り、実行に由り、世の最も尊尚する此徳を磨厲して、敢て人後に落ちざらんことを努めたり。孩提の児童と雖、なお母の懐に在りて、武功譚、英雄物語に耳を傾け、もし苦痛を哀訴することあらんか、母は『些少の苦痛に泣くは卑怯者』と呵し、継ぐに『戦場に出でて、腕を断たれなば何如。切腹を命ぜられなば何如』等の属語を以てしたり。
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『武士道』第四章 勇・敢爲堅忍の精神・大勇の士は沈着重厚なりされど武士道の勇に於ける観念は、ただにかくの如きに止まらず。勇の人の精神に宿るや、現はれて沈毅となり、不動となる。平静なるは勇の休息せる形にして、又た勇の平衡を得て静止せる現象なり。之に反して大胆なる行為は、其の動勢に表はれたる形なり。大勇の士は、沈着重厚なり。事に処して、其常を失はず、矢石を冒して怖れず、災危に臨んで動かず、雷霆の威に屈せず、風波の烈に驚かず、泰山前に崩るとも変ぜず、鼎釼の中にありて自から安んじ、死生の巷に立ちて自から楽めり。真の勇者は、危を踏み、死に瀕して従容詩歌を詠じ、声音筆蹟毫も平生に異ならず。人、皆之を歎称せり。けだし悠々逼らざること、かくの如きは、其心に多大の余裕あるに因らずんばあらず。
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論語・陽貨篇子路曰く、「君子は勇を尚ぶか。」子曰く、「君子は義以て上と為す。君子勇有りて義無ければ乱を為し、小人勇有りて義無ければ盗を為す。」
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『武士道』第四章 勇・敢爲堅忍の精神・義を為すは勇なり勇もし義に由らずんば、即ち徳たるに値ひせず。孔子は論語にて、其常とする、消極よりして勇の定義を下し、『義を見て為さざるは勇無きなり』と説きしが、之を積極に換言すれば、則ち『義を為すは勇なり』となる。危を求め、命を殆くし、死の口に馳する事、人の或は之を以て勇に擬するあり。武人の如きは、誤つてシェイクスピアの所謂『庶出の勇』たる、暴虎憑河、死して悔いざる者を賛すと雖、ひとり武士道は然らず、死すべからずして死するを犬死と賤めたり。水戸の義公はプラトーの名さへ耳にせざりき。されば此哲人が勇を称して、『恐るべきものと、恐るべからざるものとを弁識することなり』と云へるが如きは、固より之を学びたること無し。然るに義公は曰へり、『戦に臨んで身を捨つること難からず、田夫野人と雖、之を能くす。
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論語・公冶長篇子曰く、「道行われず、桴に乗りて海に浮かばん。我に従わん者は、其れ由か。」子路之を聞きて喜ぶ。子曰く、「由や、勇を好むこと我に過ぎたり。材を取る所無し。」
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『呻吟語』外篇・品藻・至勇は氣無し小勇は噭燥、巧勇は色笑、大勇は沉毅、至勇は氣無し。
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