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武士訓 / 卷二・第8段

武士は勇をうちにふくみて。外にあらはさゞること本意なり。文武を兼學て後自得すべし。但し武道にのみこゝろを用る者。年齡にて。心術ねれざるうちは。裏に勇をふくめば。かならず表にも見ゆるなり。古語に珠藏而川媚。玉韞而山輝といへるごとし。これを怯弱の者は。うわさものなどと見あやまつたぐひあり。又生得暴惡にして不義の徒もあり。おの〳〵言行をためしみて後さとすべし。今の俗をみるに。和愛ある人は柔弱に。勇敢の人は麁暴なり。こゝをもつて。前にいへるごとく。はじめに書をよませて道をしらしめ。後に武術をならはすべし。かくのごとくまなぶときは。柔弱麁暴二つのゐえ有べからず。

新字:武士は勇をうちにふくみて。外にあらはさゞること本意なり。文武を兼学て後自得すべし。但し武道にのみこゝろを用る者。年齢にて。心術ねれざるうちは。裏に勇をふくめば。かならず表にも見ゆるなり。古語に珠蔵而川媚。玉韞而山輝といへるごとし。これを怯弱の者は。うわさものなどと見あやまつたぐひあり。又生得暴悪にして不義の徒もあり。おの〳〵言行をためしみて後さとすべし。今の俗をみるに。和愛ある人は柔弱に。勇敢の人は麁暴なり。こゝをもつて。前にいへるごとく。はじめに書をよませて道をしらしめ。後に武術をならはすべし。かくのごとくまなぶときは。柔弱麁暴二つのゐえ有べからず。

書き下し

武士は勇をうちにふくみて。外にあらはさゞること本意なり。文武を兼學て後自得すべし。但し武道にのみこゝろを用る者。年齡にて。心術ねれざるうちは。裏に勇をふくめば。かならず表にも見ゆるなり。古語に珠藏而川媚。玉韞而山輝といへるごとし。これを怯弱の者は。うわさものなどと見あやまつたぐひあり。又生得暴惡にして不義の徒もあり。おの〳〵言行をためしみて後さとすべし。今の俗をみるに。和愛ある人は柔弱に。勇敢の人は麁暴なり。こゝをもつて。前にいへるごとく。はじめに書をよませて道をしらしめ。後に武術をならはすべし。かくのごとくまなぶときは。柔弱麁暴二つのゐえ有べからず。

現代語訳

武士は勇を内に含んで、外に表さないのが本意です。文武を兼ねて学び、そのうえで自得すべきです。ただし武道にばかり心を用いる者は、年齢が若く心の鍛えが熟さないうちは、内に勇を含めば、かならず外にも見えるものです。古い言葉に、珠が蔵されれば川は美しく、玉が包まれれば山は輝く、とあるとおりです。これを臆病で弱い者は「噂になる者」などと見誤ることがあります。また、生まれつき粗暴で不義の者もいます。それぞれの言行を試し見てから諭すべきです。いまの世を見ると、和やかで愛想のよい人は柔弱で、勇ましい人は粗暴です。そこで前に述べたとおり、はじめに書を読ませて道を知らせ、後に武術を習わせるべきです。そのように学べば、柔弱と粗暴という二つの害はなくなります。

解説

この段は、勇気を内に含んで外に誇らない、という武士の理想から始まります。珠や玉が山川を輝かせるという譬えは、内にあるものは自然とにじむという意味です。そのうえで蟠龍は、世の人は和やかな者が柔弱になり、勇ましい者が粗暴になりがちだと見て、先に書を読ませ道を知らせてから武術を習わせる順序を勧めます。今の育成に引き寄せれば、技術や実績だけ先に磨くと、人当たりのよさか強引さのどちらかに偏りやすい、ということです。見た目の印象で部下を決めつけず、言行を見極めたうえで指導する点も、管理職への示唆になります。

この章句が説くこと

勇内に含む文武育成の順序柔弱と粗暴武士訓

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