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山鹿語類 / 士道附錄・先生自警

吾常忘身。尤可自警。寒族鄙夫。而思同貴族高客。欲長此生。而忘死。惟招欲利身。而忘害其身。年高而忘血氣之衰。欲得志。而忘知寡德薄。吾唯恥外人之所見聞。而不自警閨門僕從之所知。恥閨門僕從之所知。而不思皇天后土所鑒。凡外事者。以慣其事之輩可致之。內事者以閨門僕從可爲鑒。其才德也。以聖敎可致之。意情之機。燕居獨座之愼。以天地可爲鑒。凡時有勢。不可强爲之。夫子曰。愚而好自用。賤而好自專。生乎今之世。反古之道。如此者。烖及其身者也。子思曰。有其禮。有其財。無其時。君子弗行。孟子曰。雖有知惠。不如乘勢。雖有鎡基。不如待時。

新字:吾常忘身。尤可自警。寒族鄙夫。而思同貴族高客。欲長此生。而忘死。惟招欲利身。而忘害其身。年高而忘血気之衰。欲得志。而忘知寡徳薄。吾唯恥外人之所見聞。而不自警閨門僕従之所知。恥閨門僕従之所知。而不思皇天后土所鑒。凡外事者。以慣其事之輩可致之。内事者以閨門僕従可為鑒。其才徳也。以聖教可致之。意情之機。燕居独座之慎。以天地可為鑒。凡時有勢。不可強為之。夫子曰。愚而好自用。賤而好自専。生乎今之世。反古之道。如此者。烖及其身者也。子思曰。有其礼。有其財。無其時。君子弗行。孟子曰。雖有知恵。不如乗勢。雖有鎡基。不如待時。

書き下し

吾常に身を忘る。尤も自ら警むべし。寒族鄙夫にして、貴族高客に同じからんことを思ふ。此の生を長くせんと欲して死を忘る。惟だ欲を招きて身を利せんとして、其の身を害するを忘る。年高くして血気の衰へを忘る。志を得んと欲して知寡く徳薄きを忘る。吾唯だ外人の見聞する所を恥ぢて、閨門僕従の知る所を自ら警めず。閨門僕従の知る所を恥ぢて、皇天后土の鑒みる所を思はず。凡そ外事は、其の事に慣るるの輩を以て之を致すべし。内事は閨門僕従を以て鑒と為すべし。其の才徳は、聖教を以て之を致すべし。意情の機、燕居独座の慎みは、天地を以て鑒と為すべし。凡そ時に勢有り、強ひて之を為すべからず。夫子曰く、愚にして好んで自ら用ひ、賤しくして好んで自ら専らにし、今の世に生まれて古の道に反る。此の如き者は、烖其の身に及ぶ者なり、と。子思曰く、其の礼有り、其の財有るも、其の時無ければ、君子は行はず、と。孟子曰く、知恵有りと雖も、勢に乗ずるに如かず。鎡基有りと雖も、時を待つに如かず、と。

現代語訳

私はいつも自分の身のほどを忘れている。もっとも自ら戒めるべきことだ。身分の低い家の凡夫なのに、高貴な家や身分の高い客と同じでありたいと思う。この命を長らえたいと願いながら死を忘れる。ただ欲を招いて身を利そうとして、それがかえって身を害することを忘れる。年をとって血気が衰えたことを忘れる。志を遂げたいと願いながら、知恵が乏しく徳が薄いことを忘れる。私はただ外の人が見聞きすることを恥じるだけで、家の奥や召使いが知っていることには自ら戒めない。家の奥や召使いが知っていることを恥じても、天地の神々が見ていることまでは思わない。およそ外の事は、その事に慣れた人々によって成し遂げればよい。内の事は家の奥の者や召使いを鏡とすればよい。才能と徳は、聖人の教えによって身につければよい。心の動きのきざしや、ひとりくつろいで座っているときの慎みは、天地を鏡とするべきである。およそ時には勢いがあり、むりに行ってはならない。孔子は言った。「愚かなのに自分の考えを用いることを好み、身分が低いのに自分で専断することを好み、今の世に生まれながら古の道に戻ろうとする。このような者には、わざわいがその身に及ぶ」。子思は言った。「その礼があり、その財があっても、その時がなければ、君子は行わない」。孟子は言った。「知恵があっても、勢いに乗ることには及ばない。鍬があっても、時節を待つことには及ばない」。

解説

身のほどを忘れる五つの姿を挙げ、恥の基準を人目から家内へ、さらに天地へと深めていき、最後に時勢を無視した強行を戒める。誰も見ていない独居のときこそ天地に照らして慎めという考えは、『中庸』『大学』の慎独に連なる。孔子の語は『中庸』、孟子の語は『孟子』公孫丑上に見え、正しい理念も時と勢を得なければ災いを招くと説く。人前の評価より、家族や身近な部下が見ている自分、さらに自分しか知らない自分をどう律するかが、働く人の品格を決めるのである。

この章句が説くこと

慎独時勢自省天地恥中庸

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