山鹿語類 / 士道附錄・先生自警
吾日老衰。事多懶惰。武敎軍容之勤數怠。且治敎日篤。居安必忘危者。古之戒也。何不錯志於茲乎。欲潔己。而亂大倫者。異端也。欲立己。而不顧衆人者。不仁也。欲達己名聞。而背舊官者。不忠也。欲先己之孝。而不與親族者。不孝也。行一善。而伐之者。不知也。見義而不爲者。無勇也。言之出。行之發。一字之書。一器之制。皆有其全躰相表。豈不自警乎。
新字:吾日老衰。事多懶惰。武教軍容之勤数怠。且治教日篤。居安必忘危者。古之戒也。何不錯志於茲乎。欲潔己。而乱大倫者。異端也。欲立己。而不顧衆人者。不仁也。欲達己名聞。而背旧官者。不忠也。欲先己之孝。而不与親族者。不孝也。行一善。而伐之者。不知也。見義而不為者。無勇也。言之出。行之発。一字之書。一器之制。皆有其全体相表。豈不自警乎。
書き下し
吾日に老衰し、事多く懶惰なり。武教軍容の勤め数々怠る。且つ治教日に篤し。安きに居て必ず危きを忘るる者は、古の戒めなり。何ぞ志を茲に錯かざるや。己を潔くせんと欲して大倫を乱る者は、異端なり。己を立てんと欲して衆人を顧みざる者は、不仁なり。己の名聞を達せんと欲して旧官に背く者は、不忠なり。己の孝を先にせんと欲して親族に与せざる者は、不孝なり。一善を行うて之に伐る者は、不知なり。義を見て為さざる者は、勇無きなり。言の出づる、行の発する、一字の書、一器の制、皆其の全体を相表す。豈に自ら警めざらんや。
現代語訳
私は日ごとに老い衰え、何事にも怠けがちになった。武芸の教えや軍の備えの勤めもしばしば怠っている。しかも世の治まりと教化は日に日に厚くなっている。安らかな境遇にいると必ず危うさを忘れるというのは、昔からの戒めである。どうしてここに心を置かずにいられようか。自分を清く保とうとして人の大きな道(人倫)を乱す者は、異端である。自分を立てようとして人々を顧みない者は、不仁である。自分の名声を広めようとして元の主君に背く者は、不忠である。自分の孝行を優先しようとして親族と和さない者は、不孝である。一つの善を行ってそれを誇る者は、知恵がない。義を見て行わない者は、勇気がない。口から出る言葉、身から出る行い、一字の書、一つの器物の作りも、みなその人の全体を表している。どうして自らを戒めずにいられようか。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『武士道』第四章 勇・敢爲堅忍の精神・生くべき時に生き死すべき時に死すされど生くべき時に生き、死すべき時に死するは真の勇なり』と。又た泰西の識者の、肉体の勇と道徳の勇とを区別するが如きは、我国人も亦たつとに之を為す。いやしくも士林に在る者は、小少より既に大勇と匹夫の勇とを弁知せざるものなかりしならん。剛毅、大胆、自若、勇猛の徳性は、青年武士の嚮往する所にして、彼等は実例に則り、実行に由り、世の最も尊尚する此徳を磨厲して、敢て人後に落ちざらんことを努めたり。孩提の児童と雖、なお母の懐に在りて、武功譚、英雄物語に耳を傾け、もし苦痛を哀訴することあらんか、母は『些少の苦痛に泣くは卑怯者』と呵し、継ぐに『戦場に出でて、腕を断たれなば何如。切腹を命ぜられなば何如』等の属語を以てしたり。
-
『武士道』第四章 勇・敢爲堅忍の精神・大勇の士は沈着重厚なりされど武士道の勇に於ける観念は、ただにかくの如きに止まらず。勇の人の精神に宿るや、現はれて沈毅となり、不動となる。平静なるは勇の休息せる形にして、又た勇の平衡を得て静止せる現象なり。之に反して大胆なる行為は、其の動勢に表はれたる形なり。大勇の士は、沈着重厚なり。事に処して、其常を失はず、矢石を冒して怖れず、災危に臨んで動かず、雷霆の威に屈せず、風波の烈に驚かず、泰山前に崩るとも変ぜず、鼎釼の中にありて自から安んじ、死生の巷に立ちて自から楽めり。真の勇者は、危を踏み、死に瀕して従容詩歌を詠じ、声音筆蹟毫も平生に異ならず。人、皆之を歎称せり。けだし悠々逼らざること、かくの如きは、其心に多大の余裕あるに因らずんばあらず。
-
論語・公冶長篇子曰く、「道行われず、桴に乗りて海に浮かばん。我に従わん者は、其れ由か。」子路之を聞きて喜ぶ。子曰く、「由や、勇を好むこと我に過ぎたり。材を取る所無し。」
-
『武士道』第四章 勇・敢爲堅忍の精神・義を為すは勇なり勇もし義に由らずんば、即ち徳たるに値ひせず。孔子は論語にて、其常とする、消極よりして勇の定義を下し、『義を見て為さざるは勇無きなり』と説きしが、之を積極に換言すれば、則ち『義を為すは勇なり』となる。危を求め、命を殆くし、死の口に馳する事、人の或は之を以て勇に擬するあり。武人の如きは、誤つてシェイクスピアの所謂『庶出の勇』たる、暴虎憑河、死して悔いざる者を賛すと雖、ひとり武士道は然らず、死すべからずして死するを犬死と賤めたり。水戸の義公はプラトーの名さへ耳にせざりき。されば此哲人が勇を称して、『恐るべきものと、恐るべからざるものとを弁識することなり』と云へるが如きは、固より之を学びたること無し。然るに義公は曰へり、『戦に臨んで身を捨つること難からず、田夫野人と雖、之を能くす。
-
論語・陽貨篇子路曰く、「君子は勇を尚ぶか。」子曰く、「君子は義以て上と為す。君子勇有りて義無ければ乱を為し、小人勇有りて義無ければ盗を為す。」
-
『呻吟語』外篇・品藻・至勇は氣無し小勇は噭燥、巧勇は色笑、大勇は沉毅、至勇は氣無し。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る