山鹿語類 / 士道・詳器物之用
次に器物之利各有用、所謂制之必以時べき也。以時せざれば其制其用疎にして不詳。器物各有其時也。又所を考て其宜き土地をはかり、而して其地に於て是を制せしめ、是を置に其宜き所を以すべし。置に所あらざれば、其物狼藉として早く破れ損ず。是を預けしむるの人あり。預からざれば詳に不糾明を以て事物あやまり有り。預りの奉行有りと云ども、猶是をたゞすの監者をおいて、是を巡察してたゞすべし。久しく蓋るときは濕にあたり燥によつて器必ず損ず。中にも武器は切々たゞさゞれば、或は外よりして內むしかみ或は腐朽して用たらざるもの也。文器は唯便用を利す。武具は非常の變を守る器なれば、急に當て損失すれば、大に敗亡するの基たり。監人おこたることなく能くたゞして、奉行の非を改め、賞罸をなすべし。是各器物の制法也。すべて世上の用器、貴輕疎而有禮べし。是に心を費さんことは、君子の心に非る也。胡文定公曰。人須是一切世味。淡薄方好。不要有富貴相。孟子謂。堂高數切。食前方丈。侍妾數百人。我得志不爲といへり。一切世味とは、飮食衣服居室のたぐひ也。器物の用猶以てしかり。然れども其制法に禮を不以ときは、威儀こゝにかくべきなれば、疎に輕くすと云とも、專禮の式を守て、上下の義をみだるべからざる也。
新字:次に器物之利各有用、所謂制之必以時べき也。以時せざれば其制其用疎にして不詳。器物各有其時也。又所を考て其宜き土地をはかり、而して其地に於て是を制せしめ、是を置に其宜き所を以すべし。置に所あらざれば、其物狼藉として早く破れ損ず。是を預けしむるの人あり。預からざれば詳に不糾明を以て事物あやまり有り。預りの奉行有りと云ども、猶是をたゞすの監者をおいて、是を巡察してたゞすべし。久しく蓋るときは湿にあたり燥によつて器必ず損ず。中にも武器は切々たゞさゞれば、或は外よりして内むしかみ或は腐朽して用たらざるもの也。文器は唯便用を利す。武具は非常の変を守る器なれば、急に当て損失すれば、大に敗亡するの基たり。監人おこたることなく能くたゞして、奉行の非を改め、賞罰をなすべし。是各器物の制法也。すべて世上の用器、貴軽疎而有礼べし。是に心を費さんことは、君子の心に非る也。胡文定公曰。人須是一切世味。淡薄方好。不要有富貴相。孟子謂。堂高数切。食前方丈。侍妾数百人。我得志不為といへり。一切世味とは、飲食衣服居室のたぐひ也。器物の用猶以てしかり。然れども其制法に礼を不以ときは、威儀こゝにかくべきなれば、疎に軽くすと云とも、専礼の式を守て、上下の義をみだるべからざる也。
書き下し
次に器物之利各有用、所謂制之必以時べき也。以時せざれば其制其用疎にして不詳。器物各有其時也。又所を考て其宜き土地をはかり、而して其地に於て是を制せしめ、是を置に其宜き所を以すべし。置に所あらざれば、其物狼藉として早く破れ損ず。是を預けしむるの人あり。預からざれば詳に不糾明を以て事物あやまり有り。預りの奉行有りと云ども、猶是をたゞすの監者をおいて、是を巡察してたゞすべし。久しく蓋るときは湿にあたり燥によつて器必ず損ず。中にも武器は切々たゞさゞれば、或は外よりして内むしかみ或は腐朽して用たらざるもの也。文器は唯便用を利す。武具は非常の変を守る器なれば、急に当て損失すれば、大に敗亡するの基たり。監人おこたることなく能くたゞして、奉行の非を改め、賞罰をなすべし。是各器物の制法也。すべて世上の用器、貴軽疎而有礼べし。是に心を費さんことは、君子の心に非る也。胡文定公曰。人須是一切世味。淡薄方好。不要有富貴相。孟子謂。堂高数切。食前方丈。侍妾数百人。我得志不為といへり。一切世味とは、飲食衣服居室のたぐひ也。器物の用猶以てしかり。然れども其制法に礼を不以ときは、威儀こゝにかくべきなれば、疎に軽くすと云とも、専礼の式を守て、上下の義をみだるべからざる也。
現代語訳
次に、器物の利にはそれぞれ用があり、いわゆる「これを作るには必ず時を以てする」べきである。時に合わせなければ、その作りも使い方も粗くて詳しくない。器物にはそれぞれその時がある。また場所を考えて適した土地を計り、その土地で作らせ、置くにも適した所を選ぶべきである。置く所がなければ、物は散らかって早く破れ損なう。これを預ける人がいる。預ける人がいなければ詳しく調べられないので、事物に誤りが生じる。預かりの奉行がいても、なおこれを正す監督の者を置いて巡察させ正すべきである。長くふたをしておけば、湿気に当たり乾きによって器は必ず損なわれる。中でも武器は、しばしば手入れをしなければ、外から内まで虫に食われたり腐ったりして役に立たなくなるものである。文の器はただ便利のためである。武具は非常の変を守る器なので、急な時に損なわれていれば大いに敗れ亡びるもとになる。監督の者は怠ることなくよく調べて、奉行の誤りを改め、賞罰をなすべきである。これがそれぞれの器物の制法である。すべて世の用いる器は、軽く粗くして、しかも礼があることを貴ぶべきである。これに心を費やすことは、君子の心ではない。胡文定公(宋の胡安国)は言った。「人は一切の世の味わいを淡泊にしてこそよい。富貴の相があってはならない。孟子は『堂の高さ数仞、食前に方丈の膳、侍妾数百人、私は志を得てもそうはしない』と言った」と。一切の世の味わいとは、飲食・衣服・住居の類である。器物の用もまた同様である。しかし、その制法に礼を用いなければ、威儀がここに欠けるので、粗く軽くするとしても、もっぱら礼の式を守って、上下の義を乱してはならないのである。
解説
この章句が説くこと
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司馬法・天子之義軍に在りては抗して立ち、行に在りては遂(すす)みて果たし、介者は拝せず、兵車は式せず、城上は趨らず、危事は歯(よわい)せず。故に礼と法とは表裏なり。文と武とは左右なり。古は、賢王民の徳を明らかにし、民の善を尽くす、故に廃徳無く、簡民無く、賞は生ずる所無く、罰は試みる所無し。有虞氏は賞せず罰せずして民用うべし、至徳なり。夏は賞して罰せず、至教なり。殷は罰して賞せず、至威なり。周は賞罰を以てす、徳衰うるなり。
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孫子・行軍篇數々賞する者は、窘するなり。數々罰する者は、困しむなり。先に暴にして後に其の衆を畏るる者は、不精の至りなり。来たりて委謝する者は、休息を欲するなり。
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