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韓非子 / 外儲説右上第三十四

乃輟不殺客,大禮之,曰:「曩者聞季之不爲文也,故欲殺之;今誠爲文也,豈忘季哉!」告廪獻千石之粟,告府獻五百金,告騶私廐獻良馬固車二乘,因令奄將宫人之美妾二十人并遺季也。欒子因相謂曰:「爲公者必利,不爲公者必害,吾曹何愛不爲公?」因私競勸而遂爲之。薛公以人臣之勢,假人主之術也,而害不得生,況錯之人主乎!夫馴烏者断其下翎焉。

新字:乃輟不殺客,大礼之,曰:「曩者聞季之不為文也,故欲殺之;今誠為文也,豈忘季哉!」告廪献千石之粟,告府献五百金,告騶私厩献良馬固車二乗,因令奄将宮人之美妾二十人并遺季也。欒子因相謂曰:「為公者必利,不為公者必害,吾曹何愛不為公?」因私競勧而遂為之。薛公以人臣之勢,仮人主之術也,而害不得生,況錯之人主乎!夫馴烏者断其下翎焉。

書き下し

乃ち輟めて客を殺さず、大いに之を礼して、曰く、「曩者季の文の為にせざるを聞く、故に之を殺さんと欲す。今誠に文の為にするなり、豈に季を忘れんや」と。廩に告げて千石の粟を献ぜしめ、府に告げて五百金を献ぜしめ、騶に告げて私の廐の良馬固車二乗を献ぜしめ、因りて奄をして宮人の美妾二十人を将ゐて并せて季に遺らしむるなり。欒子因りて相謂ひて曰く、「公の為にする者は必ず利あり、公の為にせざる者は必ず害あり、吾曹何ぞ愛みて公の為にせざらん」と。因りて私に競ひ勧めて遂に之が為にす。薛公は人臣の勢を以て、人主の術を仮るなり、而して害生ずるを得ず、況んや之を人主に錯くをや。夫れ烏を馴らす者は其の下翎を断つ。

現代語訳

そこで薛公は殺すのをやめて客を殺さず、手厚くもてなして言った。「先ほどは張季が私(田文)のために働かないと聞いたので殺そうとした。いま本当に私のために働いていると分かった。どうして張季を忘れようか」。米倉に命じて千石の粟を贈らせ、府庫に命じて五百金を贈らせ、厩番に命じて自分の厩から良馬と堅い車を二乗贈らせ、さらに宦官に宮中の美女二十人を連れて行かせ、あわせて張季に贈った。欒氏の二人はそこで語り合った。「薛公のために働く者は必ず利を得、働かない者は必ず害を受ける。我々はどうして惜しんで薛公のために働かずにいられようか」。こうして二人はひそかに競って励み、ついに薛公のために働くようになった。薛公は人臣の勢しかないのに、君主の術を借りて、害が生じないようにした。まして術を君主が用いればなおさらである。そもそも烏を飼い慣らす者は、その下の風切羽を切るのである。

解説

薛公の話の結末です。薛公は、自分のために働かないと聞いた張季を殺そうとし、実は尽くしていると聞くと一転して莫大な贈り物をします。これは王の寵臣である欒氏の二人に見せるための芝居であり、二人は利害を悟って薛公に従うようになります。第一の經「薛公は二欒と博す」の說がこれで、賞と罰を目の前で鮮やかに見せることで、敵対する者まで動かしたわけです。韓非は、臣下にすぎない薛公でさえ術で害を防げたのだから、君主ならなおさらだと結びます。最後の「烏を馴らす者は下翎を断つ」は、次の畜烏の說の書き出しです。報酬と処遇を周囲に見える形で示すことが、言葉よりも強く人を動かすという点は、今の組織にも通じます。

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