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山鹿語類 / 士道・詳器物之用

師曰。衣服飮食居宅は身を奉ずるの物にして、一日もなくんば不可有也。而して衣服あるときは是を制するの具あり、是をかくるの器あり、おさめかくすの櫃あり。飮食手を以てすること不能。爰において簠簋籩豆罍爵之飾も出來れり。されば古は汙尊而抔飮、蕢桴而土鼓といへり。云心は地をほりて樽とし、手を以て掬之、土をうつて桴とし、土をきづいて皷とせり。是上古の制也。居宅あれば、家宅に相應の品々の器物これあるべし。其上身の便用を利するの器、儿杖筆硯より初め其品多し。吉凶軍賓嘉、禮樂射御書數について器物あり。軍用には甲胃より刀鎗弓鐵砲の用、馬具の品、擧て云べからず。而して其本便用を利し、堅固を要する文武の器物に不過也。爰に器物の制皆其法ありて、古今に其制作疎密甚多し。然れども貴賤をはかつて、高下大小をきはめ、疎密をなし、表文に相じるしを出し、德をかへりみ、事をしらしむるの物を表出すべし。唯目を驚かし奢をなし無用の費をいたして、其器物をかざることを不用也。

新字:師曰。衣服飲食居宅は身を奉ずるの物にして、一日もなくんば不可有也。而して衣服あるときは是を制するの具あり、是をかくるの器あり、おさめかくすの櫃あり。飲食手を以てすること不能。爰において簠簋籩豆罍爵之飾も出来れり。されば古は汚尊而抔飲、蕢桴而土鼓といへり。云心は地をほりて樽とし、手を以て掬之、土をうつて桴とし、土をきづいて鼓とせり。是上古の制也。居宅あれば、家宅に相応の品々の器物これあるべし。其上身の便用を利するの器、儿杖筆硯より初め其品多し。吉凶軍賓嘉、礼楽射御書数について器物あり。軍用には甲胃より刀鎗弓鉄砲の用、馬具の品、挙て云べからず。而して其本便用を利し、堅固を要する文武の器物に不過也。爰に器物の制皆其法ありて、古今に其制作疎密甚多し。然れども貴賤をはかつて、高下大小をきはめ、疎密をなし、表文に相じるしを出し、徳をかへりみ、事をしらしむるの物を表出すべし。唯目を驚かし奢をなし無用の費をいたして、其器物をかざることを不用也。

書き下し

師曰。衣服飲食居宅は身を奉ずるの物にして、一日もなくんば不可有也。而して衣服あるときは是を制するの具あり、是をかくるの器あり、おさめかくすの櫃あり。飲食手を以てすること不能。爰において簠簋籩豆罍爵之飾も出来れり。されば古は汚尊而抔飲、蕢桴而土鼓といへり。云心は地をほりて樽とし、手を以て掬之、土をうつて桴とし、土をきづいて鼓とせり。是上古の制也。居宅あれば、家宅に相応の品々の器物これあるべし。其上身の便用を利するの器、儿杖筆硯より初め其品多し。吉凶軍賓嘉、礼楽射御書数について器物あり。軍用には甲胃より刀鎗弓鉄砲の用、馬具の品、挙て云べからず。而して其本便用を利し、堅固を要する文武の器物に不過也。爰に器物の制皆其法ありて、古今に其制作疎密甚多し。然れども貴賤をはかつて、高下大小をきはめ、疎密をなし、表文に相じるしを出し、徳をかへりみ、事をしらしむるの物を表出すべし。唯目を驚かし奢をなし無用の費をいたして、其器物をかざることを不用也。

現代語訳

師は言われた。衣服・飲食・住まいは身を養う物であって、一日もなくてはならない。そして衣服があれば、これを仕立てる道具があり、これを掛ける器があり、しまい隠す櫃がある。飲食は手だけではできない。そこで簠簋(穀物を盛る器)・籩豆(供物を盛る器)・罍爵(酒器)の飾りもできた。だから古は「地をくぼめて樽とし手ですくって飲み、土を固めて撥とし土で鼓を作った」と言われる。その意味は、地を掘って樽とし、手でこれをすくい、土を打ち固めて撥とし、土を築いて鼓とした、ということである。これが上古の制である。住まいがあれば、家に相応した品々の器物があるはずだ。そのうえ身の便利のための器は、机・杖・筆・硯をはじめとしてその種類が多い。吉・凶・軍・賓・嘉の五礼、礼・楽・射・御・書・数の六芸について器物がある。軍用には甲冑から刀・槍・弓・鉄砲の用、馬具の品々まで、挙げきれない。そしてその根本は、便利のための、また堅固を要する文武の器物にほかならない。そこで器物の制にはみなその法があって、古今でその作り方の粗密には大きな違いがある。しかし貴賤を計って高下大小を極め、粗密を定め、表には印を出し、徳を顧み事を知らせる物を表すべきである。ただ目を驚かせ、奢りをなし、無用の費えをして器物を飾ることはしない。

解説

本章は「詳器物之用」の冒頭で、衣食住に伴って器物が生まれた由来を『礼記』礼運篇の「汙尊而抔飲、蕢桴而土鼓」から説き、五礼・六芸・軍用の器へと広げる。素行は器物を飾りではなく、便利と堅固のための文武の道具とみる。そのうえで器には身分に応じた別と、徳や事を思い出させる印を付けよという。目を驚かすだけの飾りに費やすなという戒めは住まいの章と同じ筋である。現代の道具選びでも、見栄えより用途と規律を基準にすれば無駄な出費は減る。

この章句が説くこと

器物文武便用節度礼士道

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