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山鹿語類 / 士道・嚴居宅之制

爰を以て非常のことに逢とも、居宅の制正しからんには、己れが威儀更にたがふべからず。家宅其制をみだり、用法理を不究して、其情のまゝにことをかまへ用をなすがゆゑに、變起て心みだれ、威儀を失ふに至りぬべし。たま〳〵兀然として世事を輕んじ、變にあひ火難にあふても是命也といはん輩あつて、威儀を不失といへども、是唯不格致して、口に天命を云異端の空見也。威儀を不失と云へども强いて其說をなす也。不足用。君子大丈夫は始より終りに至るまで、皆天地の準繩によるを以て、宮室を營作すれば、水土をかんがへ、空地をはかり、天の時人事の用相ならべて爰に其制を全くするなれば、命を不云して其家宅を詳にし其守禦を詳にす。守禦詳にして不得已の時以て命に歸す。故に居宅の制を嚴にして、平生の威儀正しく、處變して其理こまやか也。是居宅において威儀の說ある故也。

新字:爰を以て非常のことに逢とも、居宅の制正しからんには、己れが威儀更にたがふべからず。家宅其制をみだり、用法理を不究して、其情のまゝにことをかまへ用をなすがゆゑに、変起て心みだれ、威儀を失ふに至りぬべし。たま〳〵兀然として世事を軽んじ、変にあひ火難にあふても是命也といはん輩あつて、威儀を不失といへども、是唯不格致して、口に天命を云異端の空見也。威儀を不失と云へども強いて其説をなす也。不足用。君子大丈夫は始より終りに至るまで、皆天地の準縄によるを以て、宮室を営作すれば、水土をかんがへ、空地をはかり、天の時人事の用相ならべて爰に其制を全くするなれば、命を不云して其家宅を詳にし其守禦を詳にす。守禦詳にして不得已の時以て命に帰す。故に居宅の制を厳にして、平生の威儀正しく、処変して其理こまやか也。是居宅において威儀の説ある故也。

書き下し

爰を以て非常のことに逢とも、居宅の制正しからんには、己れが威儀更にたがふべからず。家宅其制をみだり、用法理を不究して、其情のまゝにことをかまへ用をなすがゆゑに、変起て心みだれ、威儀を失ふに至りぬべし。たま〳〵兀然として世事を軽んじ、変にあひ火難にあふても是命也といはん輩あつて、威儀を不失といへども、是唯不格致して、口に天命を云異端の空見也。威儀を不失と云へども強いて其説をなす也。不足用。君子大丈夫は始より終りに至るまで、皆天地の準縄によるを以て、宮室を営作すれば、水土をかんがへ、空地をはかり、天の時人事の用相ならべて爰に其制を全くするなれば、命を不云して其家宅を詳にし其守禦を詳にす。守禦詳にして不得已の時以て命に帰す。故に居宅の制を厳にして、平生の威儀正しく、処変して其理こまやか也。是居宅において威儀の説ある故也。

現代語訳

こうして非常のことに遭っても、住まいの制が正しければ、自分の威儀は少しも違わないはずである。家の制を乱し、使い方の道理を究めず、気の向くままに構えたり用いたりするから、変が起これば心が乱れ、威儀を失うに至るのである。たまたま超然として世事を軽んじ、変に遭い火災に遭っても「これは天命だ」と言う者がいて、威儀を失わないとしても、それはただ物の理を究めずに口先で天命を言う異端の空論である。威儀を失わないと言っても、無理にその説を立てているだけである。用いるに足りない。君子・大丈夫は始めから終わりまで、すべて天地の準縄(定規と墨縄、つまり規準)によるので、宮室を造るにも水土を考え、空き地を計り、天の時と人事の用を並べてその制を全うするのだから、天命を口にせずに家屋を詳しくし、その守りを詳しくする。守りを詳しくしたうえで、やむをえない時に初めて天命に帰する。だから住まいの制を厳しくして、ふだんの威儀は正しく、変に処してもその道理がこまやかなのである。これが住まいについて威儀の説があるゆえんである。

解説

本章は、備えをせずに災難を「天命」で片づける態度を「口に天命を云異端の空見」と厳しく退ける。世事を軽んじる達観を気取る者への批判である。素行の立場は、人事を尽くして守りを詳しくし、それでも避けられないときに初めて命に帰するというものである。「人事を尽くして天命を待つ」の順序を崩さない点に、実学としての士道の性格がある。現代でも、備えを怠った失敗を運のせいにする組織は、同じ過ちを繰り返す。

この章句が説くこと

天命備え威儀実学究理異端

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