山鹿語類 / 士道・嚴居宅之制
次に火難の事。家宅の制右に隨て用其理を究めば內外の火災殆んどのがれつべし。其ゆゑは人の火を專とすることは、四時にて云ば、冬春の二時に風盛なるの時、朝夕にて云ば、二時の食を炊ぐ時、夜明て起くる時也。火をさかんにする處は、食をかしぎ、湯をわかし、あつものするの處、炭薪の集まる處、燭臺油突を置處、圍爐埋火の處也。火を盛にするは、賓客の節、病人あるの節、吉凶について人多く聚るの節也。此品を究理して、火を炊ぐべき竈をば、土を厚くして水に近からしめ、下に土石をかため、上に火の付よからん物を不置、火を多くたくべき家をば、遠くまうけ空地を置、井水をたくはへ、火さかんならん時には、監人を以て火の色烟の臭をたゞし、火を多く燒たらん時には、監者を廻して其塲を閱せしめ、衆賓客來會の時は、供奉のものゝ火を散すを改ため、內外をめぐりて是をけみす。如此を戒約の制とす。若火外に起らば、家上にのぼりてふせぐの輩、財器を運ぶの輩、妻室に從の輩、我に從ふ郞從、各究明して其宜を制し、火をふせぐの器を多くして、約を定めて其用をなす。如此時は火災を守禦して理にかなふべし。不得止して燒失すと云とも、其威儀更に不可亂と云べし。
新字:次に火難の事。家宅の制右に随て用其理を究めば内外の火災殆んどのがれつべし。其ゆゑは人の火を専とすることは、四時にて云ば、冬春の二時に風盛なるの時、朝夕にて云ば、二時の食を炊ぐ時、夜明て起くる時也。火をさかんにする処は、食をかしぎ、湯をわかし、あつものするの処、炭薪の集まる処、燭台油突を置処、囲炉埋火の処也。火を盛にするは、賓客の節、病人あるの節、吉凶について人多く聚るの節也。此品を究理して、火を炊ぐべき竈をば、土を厚くして水に近からしめ、下に土石をかため、上に火の付よからん物を不置、火を多くたくべき家をば、遠くまうけ空地を置、井水をたくはへ、火さかんならん時には、監人を以て火の色烟の臭をたゞし、火を多く焼たらん時には、監者を廻して其塲を閲せしめ、衆賓客来会の時は、供奉のものゝ火を散すを改ため、内外をめぐりて是をけみす。如此を戒約の制とす。若火外に起らば、家上にのぼりてふせぐの輩、財器を運ぶの輩、妻室に従の輩、我に従ふ郎従、各究明して其宜を制し、火をふせぐの器を多くして、約を定めて其用をなす。如此時は火災を守禦して理にかなふべし。不得止して焼失すと云とも、其威儀更に不可乱と云べし。
書き下し
次に火難の事。家宅の制右に随て用其理を究めば内外の火災殆んどのがれつべし。其ゆゑは人の火を専とすることは、四時にて云ば、冬春の二時に風盛なるの時、朝夕にて云ば、二時の食を炊ぐ時、夜明て起くる時也。火をさかんにする処は、食をかしぎ、湯をわかし、あつものするの処、炭薪の集まる処、燭台油突を置処、囲炉埋火の処也。火を盛にするは、賓客の節、病人あるの節、吉凶について人多く聚るの節也。此品を究理して、火を炊ぐべき竈をば、土を厚くして水に近からしめ、下に土石をかため、上に火の付よからん物を不置、火を多くたくべき家をば、遠くまうけ空地を置、井水をたくはへ、火さかんならん時には、監人を以て火の色烟の臭をたゞし、火を多く焼たらん時には、監者を廻して其塲を閲せしめ、衆賓客来会の時は、供奉のものゝ火を散すを改ため、内外をめぐりて是をけみす。如此を戒約の制とす。若火外に起らば、家上にのぼりてふせぐの輩、財器を運ぶの輩、妻室に従の輩、我に従ふ郎従、各究明して其宜を制し、火をふせぐの器を多くして、約を定めて其用をなす。如此時は火災を守禦して理にかなふべし。不得止して焼失すと云とも、其威儀更に不可乱と云べし。
現代語訳
次に火災のことである。家屋の制が以上のとおりで、使い方の道理を究めれば、内外の火災はほとんど逃れられるだろう。そのわけは、人が火を多く使うのは、四季でいえば冬と春の二つの季節で風の強い時、朝夕でいえば二度の食事を炊く時と、夜が明けて起きる時である。火を盛んにする所は、食事を炊き、湯を沸かし、吸い物を作る所、炭や薪の集まる所、燭台や油皿を置く所、囲炉裏や埋み火の所である。火を盛んにするのは、賓客のある時、病人のある時、吉事・凶事で人が多く集まる時である。この種類を究めて、火を焚く竈は土を厚くして水に近くし、下に土石を固め、上に燃えやすい物を置かず、火を多く焚く棟は遠くに設けて空き地を置き、井戸水を蓄え、火の盛んな時には監督の者に火の色や煙の臭いを確かめさせ、火を多く焚いた時には見回りの者を回らせてその場を検分させ、多くの賓客が集まる時には供の者が火を散らすのを改め、内外を巡ってこれを調べる。これを戒めと取り決めの制とする。もし火が外で起これば、屋根に上って防ぐ者、財や器を運ぶ者、妻室に付き従う者、自分に従う郎従を、それぞれ明らかに定めてその役を決め、火を防ぐ道具を多くして、取り決めを定めて用いる。このようにすれば、火災を防いで道理にかなうだろう。やむをえず焼失したとしても、その威儀は少しも乱れないというべきである。
解説
この章句が説くこと
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『山鹿語類』士道・嚴居宅之制爰を以て非常のことに逢とも、居宅の制正しからんには、己れが威儀更にたがふべからず。家宅其制をみだり、用法理を不究して、其情のまゝにことをかまへ用をなすがゆゑに、変起て心みだれ、威儀を失ふに至りぬべし。たま〳〵兀然として世事を軽んじ、変にあひ火難にあふても是命也といはん輩あつて、威儀を不失といへども、是唯不格致して、口に天命を云異端の空見也。威儀を不失と云へども強いて其説をなす也。不足用。君子大丈夫は始より終りに至るまで、皆天地の準縄によるを以て、宮室を営作すれば、水土をかんがへ、空地をはかり、天の時人事の用相ならべて爰に其制を全くするなれば、命を不云して其家宅を詳にし其守禦を詳にす。守禦詳にして不得已の時以て命に帰す。故に居宅の制を厳にして、平生の威儀正しく、処変して其理こまやか也。是居宅において威儀の説ある故也。
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『山鹿語類』士道・嚴居宅之制次に戒非常之変といへり。云心は唯便用を思て、堅固の用を不知時は、文にして武を忘れ、陽にして陰をすつる也。故に門戸には関鑰のとざしを設け、番の兵を置、非常の変を戒しむるの器用をたくはへ、たいまつ挑灯をかまへて夜の守りを堅くし、人の可来寄付往来の廊には、番兵詰番して短兵長兵をまうけ、内外より変あらんを防ぐことを利す。凡そ人の可出の口、人の往来の道、人の相会する処、皆以て番人を置て変を守らしむべし。是人変を防ぐの戒しめ也。故に居宅の制、此変を心得て、内外の防を専とす。さるによつて門外に辻番所を立て外の防をなし、門戸の左右に番所を立、往来の地皆番屋を軽ふし所々に小口をいたし出入をさへぎり、家宅の中には戸障子を立、其開闔の音を高からしめ、番人の居所は四方をとり払て、外をうかゞふに利あらしむ。爰において其制全きが故に、人其番所にあれば、自から外に非常のものなく、盗賊自然に来らざるべし。
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葉隠・聞書第十一自火(じか)の仕組(しくみ)、公私共に兼(かね)て仕置くべき事なり。歴々(れきれき)御大名方にても、自火の時、外聞(がいぶん)悪しき事これ有り候。肝要は諸道具一色(ひといろ)も直し申さず、焼き捨て候覚悟にて、粉骨火を消し、手に及ばざる時、丸焼(まるやけ)仕り候えば、仕損(しそん)有るまじく候。いかようの急火にても、うろたえ申さず候わば、身拵(みごしら)えの間(ま)とれ無き事はあるまじく候。兼々(かねがね)家内(かない)の男女共に、能く申聞かせ召置かるべき事に候。江戸御屋敷にても、仕組、衆々(しゅうじゅう)能く有るべき事に候。大事の物仕分け、直し置くべき事なり。
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『山鹿語類』士道・嚴居宅之制次に諸色を貯ひ置くの宅あり。珍器重器文武の器をば、府庫をかまへ、土瓦を厚くして、盗賊を防ぎ火難をさく。平生出納すべき川器衣服財宝は、所々に納戸をかまへ、あかりをまうけ、鼠穴をさけ、盗賊を防がしめ、不浄捨てをまうけて、不浄を一所にいだす。是家宅の式也。内女を置の所も准之して可知也。次に廊をまうけ庇をかまへ、大宅小宅のつなぎを致し、所々の椽をまうけ、風雨をのぞき、一所々々に詰間をこしらへて、其所の詰番をたゞさしめ、庭上庭下に空地を置。如此時は居宅の制こゝに全し。されば身を以て是を考ふるに、身を置あり。是平生の居間也。来客に対するの用あり。飲食をなすの所あり。身につける器用をおく所あり。又僕を置の所あるべし。たとへ一室の間方丈のせばきと云ども、此ことわりは更に不得止のゆゑん也。これを推して大厦高屋のかまへ宮殿楼閣に至ると云とも、方丈の居宅を以てわり出して、客殿雲にそびへ露台天を覆ふにも至るべし。是内のかまへにして、此外に築地をかまへ、屏をまふけ、或は塁を高くし、或は湟を深くする時は、城郭の制ともなりぬべし。此本を基として居宅の品を制する、是聖人の立法建式て、其理をきはめしむるのゆゑ也。
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『山鹿語類』士道・嚴居宅之制次に宮室の品を論ずる時は、先づ人を置く所を搆ふ。人の内には父母を安置するの室をさきとすべし。父母いまさゞる時は、廟を先んじて、而して家人の居をまうく。是今の屋を長して人を置くの宅是也。次に我居るの所あり。我平居するの宅を広からしめ、その内をかまへて小殿を設けて、親しく心易きものに対面の所とす。其間に寝所を構ふ。是私居において差別して、居間、寝所、対面所あり。次に客殿を設く。大中小は各其人によるべし。爰に又三段をかまへ、親疎尊卑の来客を饗応す。是について寄り付の宅をまふけ、或は武器をそなへ、或は番兵を置て、内外の非常を禁じ、申し次ぎ給仕するの便用を利す。次に炊飯の宅あり。これに三段をまうけて、魚鳥を調、庖丁を致すの所あり。火を盛にして、これを煮炙り、あつものし、飯かしぐの所あり。水を設け薪を蓄、魚鳥雑菜果物酒醬を置の所あり。各其用法を詳にせざれば、其制不正也。
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『山鹿語類』士道・嚴居宅之制此法を本として、宮室の大小内外のわきまへを具にすべし。家宅軽きを貴ぶといへども、其分限に従て大に致すあり、小に致すあり。一家の内にも其制大小なくんばあるべからず。室を内外に分て男女の別を正し、内より外を不云、外より内を不令窺、門を別にし井をことにし、空地を内外に設て、男女一所にあつまらしめざる、是古来の制也。如此詳に其理を究めて、高下大小皆其位を守て、聊不放埓時は、人々自然に其分を守り職を知て外を願ふことあらず。是居宅の制也。
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