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山鹿語類 / 士道・嚴居宅之制

次に宮室の用法あり。宮室を制するに、能く時をはかつて、民の勞をしり、農の時を不妨、竹木を截り取るに宜しき時、土石を運送するに利あるの時、すべて諸色時を以てせざれば、勞而無益。緩急節をはかつて、專天の時を考ふべし。詩序曰。定之方中。美衞文公也。文公徒居楚丘。始建城市。而營宮室。得其時制。百姓悅之。國家殷富焉と出せり。定は北方之宿、營室星也。此星昏而正中するは、今の十月也。是宮室營作の時なれば。民の暇あつて天の時に順也。若其事不得已時は、唯重に可從。されば門戶之制、道橋の脩造、城郭牆塹は、不可一日無焉者也。時を待てつくるべからずといへり。

新字:次に宮室の用法あり。宮室を制するに、能く時をはかつて、民の労をしり、農の時を不妨、竹木を截り取るに宜しき時、土石を運送するに利あるの時、すべて諸色時を以てせざれば、労而無益。緩急節をはかつて、専天の時を考ふべし。詩序曰。定之方中。美衛文公也。文公徒居楚丘。始建城市。而営宮室。得其時制。百姓悦之。国家殷富焉と出せり。定は北方之宿、営室星也。此星昏而正中するは、今の十月也。是宮室営作の時なれば。民の暇あつて天の時に順也。若其事不得已時は、唯重に可従。されば門戸之制、道橋の脩造、城郭牆塹は、不可一日無焉者也。時を待てつくるべからずといへり。

書き下し

次に宮室の用法あり。宮室を制するに、能く時をはかつて、民の労をしり、農の時を不妨、竹木を截り取るに宜しき時、土石を運送するに利あるの時、すべて諸色時を以てせざれば、労而無益。緩急節をはかつて、専天の時を考ふべし。詩序曰。定之方中。美衛文公也。文公徒居楚丘。始建城市。而営宮室。得其時制。百姓悦之。国家殷富焉と出せり。定は北方之宿、営室星也。此星昏而正中するは、今の十月也。是宮室営作の時なれば。民の暇あつて天の時に順也。若其事不得已時は、唯重に可従。されば門戸之制、道橋の脩造、城郭牆塹は、不可一日無焉者也。時を待てつくるべからずといへり。

現代語訳

次に宮室を造るときの心得がある。宮室を造るには、よく時を計り、民の労苦を知って農作業の時期を妨げず、竹や木を伐るのに適した時、土や石を運ぶのに都合のよい時など、何事も時に合わせなければ骨折り損になる。急ぐか緩めるかの節度を計り、もっぱら天の時を考えるべきである。『詩経』の序に「『定之方中』の詩は衛の文公をほめたものである。文公は楚丘に移り住み、初めて城と市を建て、宮室を営んだ。その時期と制度を得ていたので、百姓はこれを喜び、国家は豊かになった」とある。定とは北方の星宿で、営室星のことである。この星が日暮れに南中するのは今の十月である。これが宮室を造る時期であるのは、民に暇があって天の時に従うからである。もしやむをえない事情があれば、ただ重いほうに従う。だから門戸の造作、道や橋の修理、城郭や垣・堀は、一日もなくてはならないもので、時を待って造るべきではないと言われている。

解説

本章は普請の時期を論じ、『詩経』鄘風「定之方中」とその序を引いて、農閑期の十月に宮室を営んだ衛の文公を手本とする。民の農事を妨げず、資材の伐採や運搬に適した時を選ぶことは、為政者の徳とされた。一方で門戸・道橋・城郭のように欠かせないものは時を待たずに造るとし、原則と例外を区別している。現代でも、工事や大きな投資を現場の繁忙期に重ねない配慮と、安全に関わる修繕は先送りしない判断として、そのまま通じる考え方である。

この章句が説くこと

時民普請詩経節度為政

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