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山鹿語類 / 士道・嚴居宅之制

次に諸色を貯ひ置くの宅あり。珍器重器文武の器をば、府庫をかまへ、土瓦を厚くして、盜賊を防ぎ火難をさく。平生出納すべき川器衣服財寳は、所々に納戶をかまへ、あかりをまうけ、鼠穴をさけ、盜賊を防がしめ、不淨捨てをまうけて、不淨を一所にいだす。是家宅の式也。內女を置の所も准之して可知也。次に廊をまうけ庇をかまへ、大宅小宅のつなぎを致し、所々の椽をまうけ、風雨をのぞき、一所々々に詰間をこしらへて、其所の詰番をたゞさしめ、庭上庭下に空地を置。如此時は居宅の制こゝに全し。されば身を以て是を考ふるに、身を置あり。是平生の居間也。來客に對するの用あり。飮食をなすの所あり。身につける器用をおく所あり。又僕を置の所あるべし。たとへ一室の間方丈のせばきと云ども、此ことわりは更に不得止のゆゑん也。これを推して大厦高屋のかまへ宮殿樓閣に至ると云とも、方丈の居宅を以てわり出して、客殿雲にそびへ露臺天を覆ふにも至るべし。是內のかまへにして、此外に築地をかまへ、屏をまふけ、或は壘を高くし、或は湟を深くする時は、城郭の制ともなりぬべし。此本を基として居宅の品を制する、是聖人の立法建式て、其理をきはめしむるのゆゑ也。

新字:次に諸色を貯ひ置くの宅あり。珍器重器文武の器をば、府庫をかまへ、土瓦を厚くして、盗賊を防ぎ火難をさく。平生出納すべき川器衣服財宝は、所々に納戸をかまへ、あかりをまうけ、鼠穴をさけ、盗賊を防がしめ、不浄捨てをまうけて、不浄を一所にいだす。是家宅の式也。内女を置の所も准之して可知也。次に廊をまうけ庇をかまへ、大宅小宅のつなぎを致し、所々の椽をまうけ、風雨をのぞき、一所々々に詰間をこしらへて、其所の詰番をたゞさしめ、庭上庭下に空地を置。如此時は居宅の制こゝに全し。されば身を以て是を考ふるに、身を置あり。是平生の居間也。来客に対するの用あり。飲食をなすの所あり。身につける器用をおく所あり。又僕を置の所あるべし。たとへ一室の間方丈のせばきと云ども、此ことわりは更に不得止のゆゑん也。これを推して大厦高屋のかまへ宮殿楼閣に至ると云とも、方丈の居宅を以てわり出して、客殿雲にそびへ露台天を覆ふにも至るべし。是内のかまへにして、此外に築地をかまへ、屏をまふけ、或は塁を高くし、或は湟を深くする時は、城郭の制ともなりぬべし。此本を基として居宅の品を制する、是聖人の立法建式て、其理をきはめしむるのゆゑ也。

書き下し

次に諸色を貯ひ置くの宅あり。珍器重器文武の器をば、府庫をかまへ、土瓦を厚くして、盗賊を防ぎ火難をさく。平生出納すべき川器衣服財宝は、所々に納戸をかまへ、あかりをまうけ、鼠穴をさけ、盗賊を防がしめ、不浄捨てをまうけて、不浄を一所にいだす。是家宅の式也。内女を置の所も准之して可知也。次に廊をまうけ庇をかまへ、大宅小宅のつなぎを致し、所々の椽をまうけ、風雨をのぞき、一所々々に詰間をこしらへて、其所の詰番をたゞさしめ、庭上庭下に空地を置。如此時は居宅の制こゝに全し。されば身を以て是を考ふるに、身を置あり。是平生の居間也。来客に対するの用あり。飲食をなすの所あり。身につける器用をおく所あり。又僕を置の所あるべし。たとへ一室の間方丈のせばきと云ども、此ことわりは更に不得止のゆゑん也。これを推して大厦高屋のかまへ宮殿楼閣に至ると云とも、方丈の居宅を以てわり出して、客殿雲にそびへ露台天を覆ふにも至るべし。是内のかまへにして、此外に築地をかまへ、屏をまふけ、或は塁を高くし、或は湟を深くする時は、城郭の制ともなりぬべし。此本を基として居宅の品を制する、是聖人の立法建式て、其理をきはめしむるのゆゑ也。

現代語訳

次にさまざまな物を蓄えておく棟がある。珍しい器・重要な器・文武の道具は、府庫(蔵)を構え、土や瓦を厚くして盗賊を防ぎ火災を避ける。ふだん出し入れする器・衣服・財宝は、所々に納戸を構え、明かり取りを設け、鼠の穴を避け、盗賊を防がせ、ごみ捨て場を設けて不浄を一か所に出す。これが家屋の決まりである。奥向きの女性を置く所もこれに準じて知るべきである。次に廊下を設け庇を構えて大小の棟をつなぎ、所々に縁側を設けて風雨を防ぎ、一か所ごとに詰めの間をこしらえて、その場所の詰め番を正しくさせ、庭の上にも下にも空き地を置く。こうすれば住まいの制はここに完全になる。さて我が身に引き当てて考えると、身を置く所がある。これがふだんの居間である。来客に応じる所がある。飲食をする所がある。身に付ける道具を置く所がある。また下僕を置く所もあるはずだ。たとえ一室で方丈(一丈四方)の狭さであっても、この道理はどうしても外せないものである。これを押し広げて大きな屋敷や宮殿楼閣に至るとしても、方丈の住まいから割り出して、雲にそびえる客殿や天を覆う露台にまでなるのである。これは内の構えであって、このほかに築地(土塀)を築き、塀を設け、あるいは塁を高くし、あるいは堀を深くすれば、城郭の制ともなるだろう。この根本を基として住まいの種類を定めること、これが聖人が法を立て式を定めて、その道理を究めさせたゆえんである。

解説

本章は蔵・納戸・廊下・詰めの間までを述べたうえで、どんな狭い一室にも、居る所・客を迎える所・食べる所・道具を置く所・従者の所という働きがあり、それを押し広げれば宮殿にも城郭にもなると論じる。規模の違いを越えて同じ骨組みを見るところに、理を究めようとする素行の姿勢がよく表れている。方丈は一丈四方の小さな部屋である。現代の小さな事務所も大企業の本社も、必要な働きは変わらない。小さな単位で骨組みを正しく作れば、大きくしても崩れない。

この章句が説くこと

居宅方丈城郭制度究理士道

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