山鹿語類 / 士道・嚴居宅之制
次に所を計りて其營作をなさゞれば、必ず營作不宜也。水土によつて風寒の甚あり。炎暑のさかんなるあり。雪の多くして屋にひとしきあり。北をうけて寒く、南をうけて暖なるは平生なりといへども、國によつて其たがひあり。東西南北を考、山川海陸をつもり、土の品をはかり、水の用を考へて、其水土によるべし。次に營作の功、人力をつもり、奉行を置、其頭を定め、土石の普請、竹木の作營、大工手傳の用を具にして、其分配組ことを詳にし、營作の制聊もおこたらず、威儀爰に存すべし。而して監人を立て、日々に往來して其勞逸を正し、其賞罰を明にす。如此時は、營作自正しくして、其功速になりぬべし。丘文莊曰。古人作事。必順天時。察地勢。審土宜。不徒盡夫人事也。而又質之鬼神焉。葢宮室之建。不免於勞民傷財。可已未曾不已也。萬一不得已而爲之。必升高以望。而審其面勢之可否。降下以觀。而察其土地之宜否。考其日景。而驗其方向之正否。稽之卜筮。而考其龜兆之吉凶。無一而不善。然後興工動衆といへり。
新字:次に所を計りて其営作をなさゞれば、必ず営作不宜也。水土によつて風寒の甚あり。炎暑のさかんなるあり。雪の多くして屋にひとしきあり。北をうけて寒く、南をうけて暖なるは平生なりといへども、国によつて其たがひあり。東西南北を考、山川海陸をつもり、土の品をはかり、水の用を考へて、其水土によるべし。次に営作の功、人力をつもり、奉行を置、其頭を定め、土石の普請、竹木の作営、大工手伝の用を具にして、其分配組ことを詳にし、営作の制聊もおこたらず、威儀爰に存すべし。而して監人を立て、日々に往来して其労逸を正し、其賞罰を明にす。如此時は、営作自正しくして、其功速になりぬべし。丘文荘曰。古人作事。必順天時。察地勢。審土宜。不徒尽夫人事也。而又質之鬼神焉。葢宮室之建。不免於労民傷財。可已未曽不已也。万一不得已而為之。必升高以望。而審其面勢之可否。降下以観。而察其土地之宜否。考其日景。而験其方向之正否。稽之卜筮。而考其亀兆之吉凶。無一而不善。然後興工動衆といへり。
書き下し
次に所を計りて其営作をなさゞれば、必ず営作不宜也。水土によつて風寒の甚あり。炎暑のさかんなるあり。雪の多くして屋にひとしきあり。北をうけて寒く、南をうけて暖なるは平生なりといへども、国によつて其たがひあり。東西南北を考、山川海陸をつもり、土の品をはかり、水の用を考へて、其水土によるべし。次に営作の功、人力をつもり、奉行を置、其頭を定め、土石の普請、竹木の作営、大工手伝の用を具にして、其分配組ことを詳にし、営作の制聊もおこたらず、威儀爰に存すべし。而して監人を立て、日々に往来して其労逸を正し、其賞罰を明にす。如此時は、営作自正しくして、其功速になりぬべし。丘文荘曰。古人作事。必順天時。察地勢。審土宜。不徒尽夫人事也。而又質之鬼神焉。葢宮室之建。不免於労民傷財。可已未曽不已也。万一不得已而為之。必升高以望。而審其面勢之可否。降下以観。而察其土地之宜否。考其日景。而験其方向之正否。稽之卜筮。而考其亀兆之吉凶。無一而不善。然後興工動衆といへり。
現代語訳
次に場所を計って造らなければ、必ず造作はうまくいかない。水土によって風や寒さの厳しい所がある。暑さの盛んな所がある。雪が多くて屋根に届くほどの所がある。北に向けば寒く南に向けば暖かいのは常であるが、国によってその違いがある。東西南北を考え、山川海陸を見積もり、土の質を計り、水の用を考えて、その水土に合わせるべきである。次に造作の働きについては、人手を見積もり、奉行を置き、その頭を定め、土石の普請、竹木の細工、大工や手伝いの役を詳しくして、その配分と組み分けを細かくし、造作の決まりを少しもおろそかにせず、威儀をここに保つべきである。そのうえで監督の者を立て、毎日行き来させてその労苦と怠けを正し、賞罰を明らかにする。このようにすれば、造作は自然に正しくなり、その仕事は速く仕上がるだろう。丘文荘(明の丘濬)は言った。「古人が事を起こすときは、必ず天の時に従い、地の勢いを察し、土の宜しさを審らかにし、ただ人事を尽くすだけではなかった。そのうえさらに鬼神に問うた。思うに宮室を建てることは、民を労し財を損なうことを免れない。やめられるものをやめなかったことはない。万一やむをえずこれをするなら、必ず高い所に登って望み、その向きと勢いの可否を審らかにし、下に降りて観て、その土地の宜しさを察し、日影を考えてその方角の正しさを確かめ、卜筮に問うてその亀の兆しの吉凶を考えた。一つとして善くないことがなくなってから、工事を起こし人々を動かしたのである」と。
解説
この章句が説くこと
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易経・節卦戸庭を出でずとは、通塞を知ればなり。門庭を出でず、凶とは、時を失ふこと極まるなり。節せざるの嗟は、又誰をか咎めん。節に安んずるの亨は、上の道を承くればなり。節を甘んずるの吉は、位に居りて中なればなり。苦節は貞なれども凶とは、其の道窮まるなり。
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『山鹿語類』士道・嚴居宅之制今天下既に泰山の安にあり。百工不及処なく、国に溝洫の力をつくすべきあらずして、天子諸侯皆堯の行跡を学ばんとならば、時こゝにたがへり。何ぞ用るに足らん。堯禹を今に出さしめば、各宮室の制をいよやかにして、天子諸侯の威儀を明かにすべし。しかりと云て居宅の分に過ぎて財をついやし民を苦しめなんことは、彼の秦の阿房、隋の離宮にして、不亡ばあらず。故に聖人其奢を戒しむ。其言を不心得口にまかせて弁をなさんことは、腐儒末学のさたにして、君子の貴ぶ所にあらず。居宅の制尤可慎也。本朝営繕令を選んで唐の例に准し、天下の営作を糾明す。而して後世々に制法を立て其式を定むといへども、やゝもすれば過奢にいたり、吝情に過て、其制道に中らず。君子大丈夫唯聖人所定の本を心とし、時の制に准して、自気をうつし、其非僻の心をさるべき也。すべて家宅につれて所用の諸器ともに其制たがふもの也。聊ゆるかせに不可仕也。或は人の目を悦ばしめ、或は遊宴をことゝせんことは、皆聖人の心にあらざる也。
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