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山鹿語類 / 士道・明衣服之制

凡そ衣は腹背を蔽て寒暑を時なふ。是不得已のゆゑんにして、其間是を制するに禮を以て節す。故に身の肉を外にあらはさず。形の見苦きを外に不出。能くつゝましめ、袖を長くして手の形を不見。手は必動きやすし。動く時は非禮のわざありやすきを以て、其形をかくし、手の動くを自然にやめしむ。然れども手は動くを以て要とするがゆゑに、袖の口を闊して急に出すに又利あらしむ。是衣の制作也。袴は前後兩足ををゝふ。是又足の形を不出、前後ををゝふに、貴人の前に動靜することを利す。足又動て非禮の行ありやすし。故に其袴の長くして急に步むべからず、非禮の行成がたからしむ。然れども是は動き步むを以て用とするがゆゑに、上括下括等の制あつて、步行するに利あらしむ。されば袍の袖長くして手を蔽、袴のたけ長して足をかくす。手足に非禮の動なからしむるを以て、臣は君の前において非禮非義の行自然に不能。子又父之前においても然り。すべて五倫の間、衣裳の制に因て、不得止して非禮非義をなすこと不能しむ。若し袍の袖をくゝり擧、袴を上にくゝり、赤脚ならんには、必ず非常の相ありと知るに足れり。古の聖人其制する處、尤ゆゑあることゞも也。是禮服の法也。

新字:凡そ衣は腹背を蔽て寒暑を時なふ。是不得已のゆゑんにして、其間是を制するに礼を以て節す。故に身の肉を外にあらはさず。形の見苦きを外に不出。能くつゝましめ、袖を長くして手の形を不見。手は必動きやすし。動く時は非礼のわざありやすきを以て、其形をかくし、手の動くを自然にやめしむ。然れども手は動くを以て要とするがゆゑに、袖の口を闊して急に出すに又利あらしむ。是衣の制作也。袴は前後両足ををゝふ。是又足の形を不出、前後ををゝふに、貴人の前に動静することを利す。足又動て非礼の行ありやすし。故に其袴の長くして急に歩むべからず、非礼の行成がたからしむ。然れども是は動き歩むを以て用とするがゆゑに、上括下括等の制あつて、歩行するに利あらしむ。されば袍の袖長くして手を蔽、袴のたけ長して足をかくす。手足に非礼の動なからしむるを以て、臣は君の前において非礼非義の行自然に不能。子又父之前においても然り。すべて五倫の間、衣裳の制に因て、不得止して非礼非義をなすこと不能しむ。若し袍の袖をくゝり挙、袴を上にくゝり、赤脚ならんには、必ず非常の相ありと知るに足れり。古の聖人其制する処、尤ゆゑあることゞも也。是礼服の法也。

書き下し

凡そ衣は腹背を蔽て寒暑を時なふ。是不得已のゆゑんにして、其間是を制するに礼を以て節す。故に身の肉を外にあらはさず。形の見苦きを外に不出。能くつゝましめ、袖を長くして手の形を不見。手は必動きやすし。動く時は非礼のわざありやすきを以て、其形をかくし、手の動くを自然にやめしむ。然れども手は動くを以て要とするがゆゑに、袖の口を闊して急に出すに又利あらしむ。是衣の制作也。袴は前後両足ををゝふ。是又足の形を不出、前後ををゝふに、貴人の前に動静することを利す。足又動て非礼の行ありやすし。故に其袴の長くして急に歩むべからず、非礼の行成がたからしむ。然れども是は動き歩むを以て用とするがゆゑに、上括下括等の制あつて、歩行するに利あらしむ。されば袍の袖長くして手を蔽、袴のたけ長して足をかくす。手足に非礼の動なからしむるを以て、臣は君の前において非礼非義の行自然に不能。子又父之前においても然り。すべて五倫の間、衣裳の制に因て、不得止して非礼非義をなすこと不能しむ。若し袍の袖をくゝり挙、袴を上にくゝり、赤脚ならんには、必ず非常の相ありと知るに足れり。古の聖人其制する処、尤ゆゑあることゞも也。是礼服の法也。

現代語訳

およそ衣は腹と背を覆って寒暑をしのぐ。これはやむをえない必要からであって、その中で衣服を制するのに礼をもって節度をつける。ゆえに身の肌を外にあらわさず、見苦しい形を外に出さない。よく慎ませ、袖を長くして手の形を見せない。手は必ず動きやすい。動くときは非礼なことをしやすいので、その形を隠し、手が動くのをおのずとやめさせる。けれども手は動くことを要とするので、袖口を広くして、急に出すのにもまた便利なようにする。これが衣の作り方である。袴は前後両足を覆う。これもまた足の形を出さず、前後を覆うことで、貴人の前で立ち居することに便利にする。足もまた動いて非礼な行いをしやすい。ゆえに袴を長くして急に歩けないようにし、非礼な行いをしにくくさせる。けれども足は動き歩くことを用とするので、上括・下括(裾をくくる紐)などの仕組みがあって、歩くのに便利にする。だから袍の袖は長くて手を覆い、袴の丈は長くて足を隠す。手足に非礼な動きがないようにさせるので、臣は君の前で非礼・非義の行いがおのずとできない。子も父の前でまた同じである。すべて五倫の間で、衣裳の制度によって、やむをえず非礼・非義をすることができないようにさせる。もし袍の袖をくくり上げ、袴を上にくくり、素足でいるなら、必ず非常の事態があると知るに足る。古の聖人の定めたところには、まことに理由があることばかりである。これが礼服の法である。

解説

長い袖と袴が手足の動きを抑え、君父の前で非礼な振る舞いをできなくさせる、という礼服の機能を説く段である。素行は衣服の形そのものに、人の振る舞いを自然に正す仕掛けを読み取る。一方で袖口を広くし、裾をくくる紐を設けて、必要なときの動きやすさも確保していると見る点が兵学者らしい。袖をくくり素足になる姿を非常時の印とするのも鋭い。環境や道具の形が行動を導くという考えは、現代の職場づくりや仕組みの設計にも通じる。

この章句が説くこと

礼威儀衣服袴仕組み五倫

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