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山鹿語類 / 士道・愼言語

次に平生の言あり。處變の言あり。云心は、無事安全の時、疾言あつて云ときは、必ず人を驚す。我に疾言あはてゝ云處あるは、內輕忽にして詳に不盡のゆへなり。非常の變あつて、天災地災人災をこるの時は、疾言して人をゝどろかし、速に言ひ早くはからしむべきの時也。靜にゆるやかに可致の地にあらず。こゝを以て變に處しては變を以てすべし。是常變各理にあたるの時也。一樣に存じ一理を守て、臨機應變を不盡時は、皆泥着するのみ也。こゝを以て案ずるに、言語は內の發見する處なれば、聊以てゆるかせにせば、威儀則ち亂れつべし。君子非禮の言をつゝしむこと、尤可翫味也。唯淫亂非義を云を以て非禮と云にあらず。口を開て節に不中ときは、則ち非禮也。言を出して時宜に不合は、是則ち非禮也。非禮勿言の戒、甚大也と可知。

新字:次に平生の言あり。処変の言あり。云心は、無事安全の時、疾言あつて云ときは、必ず人を驚す。我に疾言あはてゝ云処あるは、内軽忽にして詳に不尽のゆへなり。非常の変あつて、天災地災人災をこるの時は、疾言して人をゝどろかし、速に言ひ早くはからしむべきの時也。静にゆるやかに可致の地にあらず。こゝを以て変に処しては変を以てすべし。是常変各理にあたるの時也。一様に存じ一理を守て、臨機応変を不尽時は、皆泥着するのみ也。こゝを以て案ずるに、言語は内の発見する処なれば、聊以てゆるかせにせば、威儀則ち乱れつべし。君子非礼の言をつゝしむこと、尤可翫味也。唯淫乱非義を云を以て非礼と云にあらず。口を開て節に不中ときは、則ち非礼也。言を出して時宜に不合は、是則ち非礼也。非礼勿言の戒、甚大也と可知。

書き下し

次に平生の言あり。処変の言あり。云心は、無事安全の時、疾言あつて云ときは、必ず人を驚す。我に疾言あはてゝ云処あるは、内軽忽にして詳に不尽のゆへなり。非常の変あつて、天災地災人災をこるの時は、疾言して人をゝどろかし、速に言ひ早くはからしむべきの時也。静にゆるやかに可致の地にあらず。こゝを以て変に処しては変を以てすべし。是常変各理にあたるの時也。一様に存じ一理を守て、臨機応変を不尽時は、皆泥着するのみ也。こゝを以て案ずるに、言語は内の発見する処なれば、聊以てゆるかせにせば、威儀則ち乱れつべし。君子非礼の言をつゝしむこと、尤可翫味也。唯淫乱非義を云を以て非礼と云にあらず。口を開て節に不中ときは、則ち非礼也。言を出して時宜に不合は、是則ち非礼也。非礼勿言の戒、甚大也と可知。

現代語訳

次に平生の言葉がある。変事に処する言葉がある。その心は、無事で安全な時に早口で言えば、必ず人を驚かせる。自分に早口であわてて言うところがあるのは、内が軽はずみで詳しく尽くしていないからである。非常の変事があって、天災・地災・人災が起こった時は、早口で人を驚かせ、速く言って早く計らわせるべき時である。静かにゆるやかにすべき場ではない。だから変事に処しては変事のやり方ですべきである。これが平常と変事がそれぞれ理にかなう時である。一様に考え一つの理を守って、臨機応変を尽くさない時は、みな一つのことにこだわるばかりである。このことから考えると、言語は内が現れ出るものであるから、少しでもおろそかにすれば、威儀はすぐに乱れてしまうであろう。君子が礼にはずれた言葉を慎むことは、もっとも味わうべきである。ただ淫らで義に外れたことを言うのだけを非礼というのではない。口を開いて節度にかなわないときは、それが非礼である。言葉を出して時宜に合わないのは、それが非礼である。「非礼言うこと勿れ」の戒めは、まことに大きいと知るべきである。

解説

平生の言と処変の言を対比し、非礼の言の意味を広げる章句である。平時に早口であわてるのは内の軽忽の現れだが、天災・地災・人災の非常時には早口で人を驚かせ速く計らわせるべきだとして、一つの理に泥む態度を戒める。前段で静かに話す礼を説いた素行が、ここで臨機応変を説くのは、兵学者としての現実感覚による。さらに論語顔淵篇の「非礼言うこと勿れ」を、節度と時宜に合わない言葉すべてに広げて読む。現代の危機管理でも、平時の丁寧さと非常時の簡潔で速い指示の切り替えが求められる。

この章句が説くこと

言語臨機応変非礼時宜危機慎言

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