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山鹿語類 / 士道・愼言語

平居の言ありと云は、平生私宅に居る時の言あるべし。朝廷の禮を移して私に用いんことは、其氣僣上にありぬべし。聊も其言を一に不可仕也。されば家の名所出入の言、侍臣の名、詰番の次第、更に公の言を不用。其談論言語公を不議、公用を私に不語。少儀曰、公事不私議、嫌若姦也といへり。范益謙座右戒に、不言朝廷利害邊報差除、邊報邊境之報也、遣使曰差、授官曰除不言州縣官員長短得失、不言衆人所作過惡、不言仕進官職趨時附勢、不言財利多少、厭貧求富、不言淫媟戯慢評論女色、不言求覓人物、干索酒食と云へる、平居の戒と云べし。平居の間言をつゝしみて朝廷の如くならんには、其和かけて道こゝに不調。夫子も申々如たり、天々如たりとにや。しかるときは、平居の言は和順するにあり。

新字:平居の言ありと云は、平生私宅に居る時の言あるべし。朝廷の礼を移して私に用いんことは、其気僣上にありぬべし。聊も其言を一に不可仕也。されば家の名所出入の言、侍臣の名、詰番の次第、更に公の言を不用。其談論言語公を不議、公用を私に不語。少儀曰、公事不私議、嫌若姦也といへり。范益謙座右戒に、不言朝廷利害辺報差除、辺報辺境之報也、遣使曰差、授官曰除不言州県官員長短得失、不言衆人所作過悪、不言仕進官職趨時附勢、不言財利多少、厭貧求富、不言淫媟戯慢評論女色、不言求覓人物、干索酒食と云へる、平居の戒と云べし。平居の間言をつゝしみて朝廷の如くならんには、其和かけて道こゝに不調。夫子も申々如たり、天々如たりとにや。しかるときは、平居の言は和順するにあり。

書き下し

平居の言ありと云は、平生私宅に居る時の言あるべし。朝廷の礼を移して私に用いんことは、其気僣上にありぬべし。聊も其言を一に不可仕也。されば家の名所出入の言、侍臣の名、詰番の次第、更に公の言を不用。其談論言語公を不議、公用を私に不語。少儀曰、公事不私議、嫌若姦也といへり。范益謙座右戒に、不言朝廷利害辺報差除、辺報辺境之報也、遣使曰差、授官曰除不言州県官員長短得失、不言衆人所作過悪、不言仕進官職趨時附勢、不言財利多少、厭貧求富、不言淫媟戯慢評論女色、不言求覓人物、干索酒食と云へる、平居の戒と云べし。平居の間言をつゝしみて朝廷の如くならんには、其和かけて道こゝに不調。夫子も申々如たり、天々如たりとにや。しかるときは、平居の言は和順するにあり。

現代語訳

平居の言葉があるというのは、ふだん私宅にいる時の言葉があるはずだということである。朝廷の礼を移して私に用いることは、その気が身分を越えた僭上になるであろう。少しもその言葉を同じにしてはならない。だから家の名所や出入りの言葉、側仕えの者の呼び名、詰番の順序などに、公の言葉をまったく用いない。その談論や言葉では公のことを議せず、公の用事を私に語らない。少儀に「公の事は私に議さない。姦(よこしま)に似ることを嫌うからである」とある。范益謙の座右の戒に「朝廷の利害、辺境の知らせ、使者の派遣や任官(辺報は辺境からの知らせ、使いを遣わすを差、官を授けるを除という)のことを言わない。州県の役人の長所短所や得失を言わない。人々のした過ちや悪を言わない。仕官や昇進、時勢に乗り権勢に付くことを言わない。財利の多少を言い、貧しさを嫌い富を求めることを言わない。みだらで戯れた話や女色の評論を言わない。人に物をねだり、酒食を求めることを言わない」とあるのは、平居の戒めというべきである。平居の間も言葉を慎んで朝廷のようにするならば、和が欠けて道が調わない。孔子も(家でくつろぐときは)申々如(のびやか)であり、夭々如(にこやか)であったという。そうであれば、平居の言葉は和やかで素直であることにある。

解説

私宅での言葉の礼を説く章句である。朝廷の言葉を家に持ち込めば僭上になるとして公私の言葉を分け、礼記少儀の「公事は私に議せず」と、小学に収める范益謙の座右戒の七つの「言わず」を平居の戒めとして引く。人の過悪、出世や権勢、財利、女色の話をしないという戒めは、今の職場の雑談にもそのまま当てはまる。一方で家でも朝廷のように堅苦しくすれば和が欠けるとし、論語述而篇の孔子の燕居の姿を引いて、和順を平居の言の本とする。緊張と寛ぎの使い分けを説く点に素行の均衡感覚がある。

この章句が説くこと

言語公私平居和順座右戒慎言

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