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山鹿語類 / 士道・愼言語

而して人の問事尋事應諾の節、尤其時宜を詳にして、安定ならしむべし。若其云言、答ふる言に知慮の可入儀、評論講談、或は私の用事、或は世上人生のうはさに及ぶときは、公必左右に色退辭讓して、不得已ときは、其言を詳にすべし。己れさがしらして疾言卒爾として答るは、禮讓のかくる處、威儀のとゝのほらざる也。古人言及則揖左右而云と云々。すべて人の云所を詳に不聞屆して、我ものがほにうけこたうをいたせば、輕忽の失あるを以て、應諾必違ふ。不知ことを知たりと云、不覺事を覺へたりと云て、あとに首尾不合、一言出ては駟馬も難追と云古へのためしこゝにあり。故に然諾は必重く應ずと云へることあり。たとへきゝうけ寡なき如くに傍より見ゆると云とも、具に其尋を心得て其返答を詳にすべし。世人皆利口辯舌を貴んで、物ごとに早合點なること多ことを以て、人の云所を半にして答を速にす。尤君子の道に非ず。但し軍戰の地は、間に不容髮の言多し。是を以て平生に不可准。是軍旅之言なれば也。

新字:而して人の問事尋事応諾の節、尤其時宜を詳にして、安定ならしむべし。若其云言、答ふる言に知慮の可入儀、評論講談、或は私の用事、或は世上人生のうはさに及ぶときは、公必左右に色退辞譲して、不得已ときは、其言を詳にすべし。己れさがしらして疾言卒爾として答るは、礼譲のかくる処、威儀のとゝのほらざる也。古人言及則揖左右而云と云々。すべて人の云所を詳に不聞届して、我ものがほにうけこたうをいたせば、軽忽の失あるを以て、応諾必違ふ。不知ことを知たりと云、不覚事を覚へたりと云て、あとに首尾不合、一言出ては駟馬も難追と云古へのためしこゝにあり。故に然諾は必重く応ずと云へることあり。たとへきゝうけ寡なき如くに傍より見ゆると云とも、具に其尋を心得て其返答を詳にすべし。世人皆利口弁舌を貴んで、物ごとに早合点なること多ことを以て、人の云所を半にして答を速にす。尤君子の道に非ず。但し軍戦の地は、間に不容髪の言多し。是を以て平生に不可准。是軍旅之言なれば也。

書き下し

而して人の問事尋事応諾の節、尤其時宜を詳にして、安定ならしむべし。若其云言、答ふる言に知慮の可入儀、評論講談、或は私の用事、或は世上人生のうはさに及ぶときは、公必左右に色退辞譲して、不得已ときは、其言を詳にすべし。己れさがしらして疾言卒爾として答るは、礼譲のかくる処、威儀のとゝのほらざる也。古人言及則揖左右而云と云々。すべて人の云所を詳に不聞届して、我ものがほにうけこたうをいたせば、軽忽の失あるを以て、応諾必違ふ。不知ことを知たりと云、不覚事を覚へたりと云て、あとに首尾不合、一言出ては駟馬も難追と云古へのためしこゝにあり。故に然諾は必重く応ずと云へることあり。たとへきゝうけ寡なき如くに傍より見ゆると云とも、具に其尋を心得て其返答を詳にすべし。世人皆利口弁舌を貴んで、物ごとに早合点なること多ことを以て、人の云所を半にして答を速にす。尤君子の道に非ず。但し軍戦の地は、間に不容髪の言多し。是を以て平生に不可准。是軍旅之言なれば也。

現代語訳

そして人が問うこと、尋ねることに応じ承諾するときは、とりわけその時宜を詳しくして、落ち着かせるべきである。もしその言うこと、答える言葉に知恵や思慮を入れるべき事柄、評論や講談、あるいは私の用事、あるいは世間や人の噂に及ぶときは、必ず左右の人に顔色を改めて退きへりくだり、やむを得ないときは、その言葉を詳しくすべきである。自分が賢しらにして早口で軽率に答えるのは、礼譲の欠けるところ、威儀のととのわないところである。古人は「話が及べば左右に会釈してから言う」と言った云々。すべて人の言うことを詳しく聞き届けずに、自分の物のような顔で受け答えすれば、軽はずみの失敗があるので、承諾は必ず違ってしまう。知らないことを知っていると言い、覚えていないことを覚えていると言って、あとで首尾が合わなくなる。「一言口から出れば四頭立ての馬車でも追いつけない」という古の例がここにある。だから「承諾は必ず重く応じる」ということがある。たとえ聞き受けることが少ないように傍から見えても、よくその尋ねを心得てその返答を詳しくすべきである。世の人はみな口達者や弁舌を尊んで、何事にも早合点が多いので、人の言うことを半ばで聞いて答えを速くする。まったく君子の道ではない。ただし戦場では、間に髪の毛一本入らないほどの急な言葉が多い。これを平生の基準にしてはならない。それは軍旅の言葉だからである。

解説

人に応答するときの慎みを説く章句である。相手の言うことを最後まで聞き届けず、知らぬことを知るといい、早合点で半ばに答えることを、口達者を尊ぶ世の風として戒める。論語顔淵篇の「駟も舌に及ばず」を踏まえ、承諾は重くせよと説く。一方で戦場の言葉は間髪を容れぬもので平時の基準ではないと分けるところに、兵学者としての素行の現実感覚がある。現代でも、即答を有能さと取り違えず、相手の問いを正確に聞き取ってから答えることが信頼を生む。

この章句が説くこと

応諾言語傾聴礼譲早合点慎言

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