山鹿語類 / 士道・勵忠孝
されば古來伯禹の洪水を導き、皐陶の爲士官、道こゝに正しく、伊尹傅說が商に勳猷を立、周公旦召公奭の周の世に政道を輔佐せしより、歴代の大臣忠を盡して世をまつりごち、民を救て其大功を治世に立、周の太公望、漢の張良、蜀の諸葛孔明が戰伐の功を以て亂世に道義を存し、關龍逢が夏の桀を諫めて就炮烙之刑、比干が殷の紂を諫て逢七竅之害、衞史魚が己れが屍を牖下にすてしめて靈公を諫、周舍が願爲諤々之臣て趙簡子が過を諫、漢汲黯が武帝を面折し、朱雲が成帝のために折檻の諫を行、各人主の怒を侵して己が死を不顧。齊晝邑の王蠋、燕の軍にやぶられて、燕王是を万戶侯に封ぜんと有けれども、忠臣不事二君、貞女不更二夫と云て、ついにくびれ死す。唐顏杲卿が祿山を罵て、其舌をたゝれて死す。是皆忠立て其道を盡すに至れり。君につかへて其德をねるに非ずや。德こゝに不正ば、何を以てか如此に可至。
新字:されば古来伯禹の洪水を導き、皐陶の為士官、道こゝに正しく、伊尹傅説が商に勲猷を立、周公旦召公奭の周の世に政道を輔佐せしより、歴代の大臣忠を尽して世をまつりごち、民を救て其大功を治世に立、周の太公望、漢の張良、蜀の諸葛孔明が戦伐の功を以て乱世に道義を存し、関竜逢が夏の桀を諫めて就炮烙之刑、比干が殷の紂を諫て逢七竅之害、衛史魚が己れが屍を牖下にすてしめて霊公を諫、周舎が願為諤々之臣て趙簡子が過を諫、漢汲黯が武帝を面折し、朱雲が成帝のために折檻の諫を行、各人主の怒を侵して己が死を不顧。斉昼邑の王蠋、燕の軍にやぶられて、燕王是を万戸侯に封ぜんと有けれども、忠臣不事二君、貞女不更二夫と云て、ついにくびれ死す。唐顔杲卿が禄山を罵て、其舌をたゝれて死す。是皆忠立て其道を尽すに至れり。君につかへて其徳をねるに非ずや。徳こゝに不正ば、何を以てか如此に可至。
書き下し
されば古来伯禹の洪水を導き、皐陶の為士官、道こゝに正しく、伊尹傅説が商に勲猷を立、周公旦召公奭の周の世に政道を輔佐せしより、歴代の大臣忠を尽して世をまつりごち、民を救て其大功を治世に立、周の太公望、漢の張良、蜀の諸葛孔明が戦伐の功を以て乱世に道義を存し、関竜逢が夏の桀を諫めて就炮烙之刑、比干が殷の紂を諫て逢七竅之害、衛史魚が己れが屍を牖下にすてしめて霊公を諫、周舎が願為諤々之臣て趙簡子が過を諫、漢汲黯が武帝を面折し、朱雲が成帝のために折檻の諫を行、各人主の怒を侵して己が死を不顧。斉昼邑の王蠋、燕の軍にやぶられて、燕王是を万戸侯に封ぜんと有けれども、忠臣不事二君、貞女不更二夫と云て、ついにくびれ死す。唐顔杲卿が禄山を罵て、其舌をたゝれて死す。是皆忠立て其道を尽すに至れり。君につかへて其徳をねるに非ずや。徳こゝに不正ば、何を以てか如此に可至。
現代語訳
だから古来、伯禹(禹)が洪水を導いて治め、皐陶が司法の官となって道がここに正しくなり、伊尹と傅説が殷(商)で勲功を立て、周公旦と召公奭が周の世に政道を補佐して以来、歴代の大臣は忠を尽くして世を治め、民を救ってその大功を治世に立てた。周の太公望、漢の張良、蜀の諸葛孔明は戦の功によって乱世に道義を保った。関龍逢は夏の桀王を諫めて炮烙の刑にかかり、比干は殷の紂王を諫めて胸を裂かれ(七つの穴を見られる)害にあい、衛の史魚は自分の屍を窓の下に捨て置かせて霊公を諫め、周舎は「直言して争う臣でありたい」と願って趙簡子の過ちを諫め、漢の汲黯は武帝を面と向かって責め、朱雲は成帝のために欄干が折れるまで諫めた。おのおの君主の怒りを犯して自分の死を顧みなかった。斉の昼邑の王蠋は、燕の軍に国が破られ、燕王が彼を万戸侯に封じようとしたが、「忠臣は二君に仕えず、貞女は夫を替えない」と言って、ついに首をくくって死んだ。唐の顔杲卿は安禄山を罵り、その舌を断たれて死んだ。これらはみな忠が立ってその道を尽くすに至ったものである。主君に仕えてその徳を練ったのではないか。徳がここで正しくなければ、どうしてこのようなところに至れようか。
解説
この章句が説くこと
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『韓非子』初見秦第一然り而して兵甲頓れ、士民病み、蓄積索き、田疇荒れ、囷倉虚しく、四隣の諸侯服せず、霸王の名成らず。此れ異なる故無し、其の謀臣皆な其の忠を尽くさざればなり。
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『翁問答』上卷之本大臣の忠節は、其業大なる故に大忠と云、小臣の忠節は、其事小なる故に小忠と云ふ、主君の嫌ふ事にても、君の為め国家の為め家中の為めによき事なれば、主君の必ず行ひ給ふ様に、能く諫めを成し、主君の好む事にても、悪しき事なれば、必ず止め給ふ様に能く諫めて、主の心立身持道に叶ひ、万化の本を正し、国を穏かに末永く栄へ給ふ様にと、一心に思ひ入れ、我が身の為めは少しも顧みず、竜逢比干の諫めて死したる心を守り身を棄て主の為めを第一にするを大忠と云ふ、是は家老出頭の忠節なり是非善悪を撰ばず、主の下知に従ひて、一心に君を敬ひ身を棄て、其職分を勤仕するを小忠と云ふ、是は小身なる臣下の忠節なり、
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『徂徠先生答問書』卷中惣じて諫に限らずわれを信仰せざる人に向ひて道理を説候事何の益も無之事に候。今世に君を諫め人に異見を申候は、大形は傍人を聞手に立候心多く御座候。是は専ら公事人の心に候へば、争の真中に候故に、諫は大形は君の悪を激する事に罷成り、身も死し諫も行はれず、只諫臣といふ名を取り候事に止り候。然れば忠臣にてはなくて名聞の甚敷にて候。先如此心得可申事に候。然共其職分にはまりて我身の事のごとくに存候人は、時にとりては申さで叶はぬ事ある物に候。それは其時の事に候。已上。
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『不動智神妙録』諫言 其一 忠を尽くす内々存寄候事、御諫可申入候由、愚案如何に存候得共、折節幸と存じ及見候処あらまし書付進し申候、貴殿事、兵法に於て今古無双の達人故、当時官位俸禄世の聞えも美々敷候、此大厚恩を寐ても覚ても忘るゝことなく、旦夕恩を報し忠を尽さんことをのみ思ひたまふべし、
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『不動智神妙録』諫言 其一 忠を尽くす忠を尽くすといふは、先づ我心を正くし身を治め、毛頭君に二心なく、人を恨み咎めず、日々に出仕怠らず、一家に於ては父母に能く孝を尽し、夫婦の間少しも猥になく、礼義正しく妾婦を愛せず、色の道を絶ち、父母の間おごそかに道を以てし、下を使ふに私のへだてなく、善人を用ゐ近付け、我足らざる所を諫め、御国の政を正敷し、不善人を遠ざくる様にするときは、善人は日々に進み、不善人もおのづから主人の善を好む所に化せられ、悪を去り善に遷るなり、
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『文武訓』武訓上一勇にはやまる人は、死すべからずして死す。是仁にそむきて生をかろんず、孝にあらず。勇なき人は死すべくして死なず。是義にそむきて生ををしみ恥を知らず、忠にあらず。一もろこしの風俗、昔より、君をいさめて殺さるることを知れども、いさむる人多きはなんぞや。其国の人、うまれつき忠義ありて、風俗も亦気節をたつとぶ。其上文字ありて、諫の道を知ればなり。是もろこしの長ずる所なるべし。日本の武士は古より、戦場にて、君のためたたかひ、死して命ををしまざる人多きはなんぞや。此国の人は、天性武勇つよく、其上、昔より国の風俗にて、名をおもんずればなり。是和漢の人の各長ずる所なり。士気ありて死をおそれざる事は、和漢同じけれども、其志す所かはれるは、国のならはしにて、文を好み武を尚ぶの道異るなるべし。
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