山鹿語類 / 士道・度量
我に氣を養所うすくして、大丈夫の本意不立時は、利害好惡に付て心こゝに動き、氣こゝに妄作して、眞を失べし。人皆物にあたつてせく處出來る事は、氣妄動して處を失を以て也。妄動するときは、知これがためにかくれて、所爲皆妄作也。更に寛廣の處なし。大丈夫生死一大事の地に臨み、白刄を蹈、劒戟をほとばしらしめて、剛操の節をあらはし、臨大事决大議垂紳正笏不動聲色而措天下於泰山之安と云へける文武の大用は度量の間に可存也。
新字:我に気を養所うすくして、大丈夫の本意不立時は、利害好悪に付て心こゝに動き、気こゝに妄作して、真を失べし。人皆物にあたつてせく処出来る事は、気妄動して処を失を以て也。妄動するときは、知これがためにかくれて、所為皆妄作也。更に寛広の処なし。大丈夫生死一大事の地に臨み、白刄を蹈、劒戟をほとばしらしめて、剛操の節をあらはし、臨大事決大議垂紳正笏不動声色而措天下於泰山之安と云へける文武の大用は度量の間に可存也。
書き下し
我に気を養所うすくして、大丈夫の本意不立時は、利害好悪に付て心こゝに動き、気こゝに妄作して、真を失べし。人皆物にあたつてせく処出来る事は、気妄動して処を失を以て也。妄動するときは、知これがためにかくれて、所為皆妄作也。更に寛広の処なし。大丈夫生死一大事の地に臨み、白刄を蹈、劒戟をほとばしらしめて、剛操の節をあらはし、臨大事決大議垂紳正笏不動声色而措天下於泰山之安と云へける文武の大用は度量の間に可存也。
現代語訳
自分に気を養うところが薄く、大丈夫としての本意が立たないときは、利害や好き嫌いにつけて心がそこで動き、気がそこで妄りにはたらいて、真実を失ってしまう。人がみな物事に当たってせかせかするところが出てくるのは、気が妄りに動いて所を失うからである。妄りに動くときは、知がそのために隠れて、することがみな妄作になる。少しも広くゆったりしたところがない。大丈夫が生死の一大事の場に臨み、白刃を踏み、剣や戟をほとばしらせて、剛く節操を守る節をあらわし、「大事に臨み大議を決し、紳(大帯)を垂れ笏を正して、声色を動かさずに天下を泰山の安きに置く」と言われるような文武の大きなはたらきは、度量の間にこそ存するのである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『呻吟語』内篇・應務・度量寬弘なれば受用の處有り世間に一處として拂意の事無きは無く、一日として拂意の事無きは無し。椎だ度量寬弘なれば受用の處有り。彼の局量褊淺なる者は空しく自ら懊恨するのみ。
-
『呻吟語』内篇・應務・量は六合の隘きを嫌ふ量は六合の隘きを嫌ひ、身は五岳を負ふも輕し。
-
説苑・尊賢斉の桓公庭燎を設け、士の造り見えんと欲する者の為にす。期年にして士至らず。是に於いて東野の鄙人に九九の術を以て見えんとする者有り。桓公曰く、「九九何ぞ以て見ゆるに足らんや」と。鄙人対えて曰く、「臣九九を以て見ゆるに足れりと為すに非ず、臣聞く、主君庭燎を設けて以て士を待つも、期年にして士至らずと。夫れ士の至らざる所以の者は、君は天下の賢君なり、四方の士、皆自ら論ずるに君に及ばずと以て、故に至らざるなり。夫れ九九は薄能のみなるに、而れども君猶お之を礼す、況んや九九より賢れる者をや。夫れ太山は壌石を辞せず、江海は小流を逆えず、大を成す所以なり」と。詩に云う、「先民言える有り、芻蕘に詢う」と。博く謀ることを言うなり。桓公善しと曰いて、乃ち因りて之を礼す。期月にして四方の士、相携えて並び至る。詩に曰く、「堂より基に徂き、羊より牛に徂く」と。内を以て外に及び、小を以て大に及ぶことを言うなり。
-
『呻吟語』内篇・應務・一葉の滄海に泛ぶが如し聖賢の量は空闊なり。事の胸中に到るは一葉の滄海に泛ぶが如し。
-
史記 季布欒布列伝季布は、楚の人なり。気を為し任侠たり、楚に名有り。項籍兵を将ゐしめ、数々漢王を窘む。項羽滅ぶるに及び、高祖布を千金に購求し、敢へて舎匿する有らば、罪三族に及ぶとす。季布濮陽の周氏に匿る。周氏曰く「漢将軍を購ふこと急なり、跡且に臣の家に至らんとす、将軍能く臣に聴かば、臣敢へて計を献ぜん。即し能はずんば、願はくは先づ自剄せん」と。季布之を許す。乃ち季布を髡鉗し、褐衣を衣せ、広柳車の中に置き、并びに其の家僮数十人と、魯の朱家の所に之きて之を売る。朱家心に是れ季布なるを知り、乃ち買ひて之を田に置く。其の子を誡めて曰く「田事は此の奴に聴け、必ず与に食を同じくせよ」と。朱家乃ち軺車に乗りて洛陽に之き、汝陰侯滕公に見ゆ。滕公朱家を留めて飲むこと数日。因りて滕公に謂ひて曰く「季布何の大罪ありて、上之を求むること急なるや」と。滕公曰く「布数々項羽の為に上を窘む、上之を怨む、故に必ず之を得んと欲す」と。朱家曰く「君季布を視ること何如なる人ぞ」と。曰く「賢者なり」と。朱家曰く「臣は各々其の主の為に用ひらる、季布の項籍の為に用ひらるるは、職のみ。項氏の臣尽く誅すべけんや。今上始めて天下を得て、独り己の私怨を以て一人を求む、何ぞ天下に広からざるを示すや。且つ季布の賢を以てして漢之を求むること此くの如く急なれば、此れ北のかた胡に走らずんば即ち南のかた越に走らんのみ。夫れ壮士を忌みて以て敵国に資するは、此れ伍子胥の荊の平王の墓に鞭うちし所以なり。君何ぞ従容として上の為に言はざるや」と。汝陰侯滕公心に朱家の大侠なるを知り、季布其の所に匿るると意ひ、乃ち許して曰く「諾」と。間を待ちて、果たして朱家の指の如く言ふ。上乃ち季布を赦す。是の時に当たり、諸公皆季布の能く剛を摧きて柔と為すを多とし、
-
『十善法語』巻第六・不惡口戒愚ナル者ハ。謹慎ハ窮窟ナルヤウニ思ヒ。放逸ハ安楽ナルヤウニ思フ。サウデナイ。誠ノ楽ハ謹慎篤実ノ上ニ在テ。燕安放逸ノ処ニハナイ。愚ナル者ハ。謹慎篤実ナレハ不器量ナル様ニ思ヒ。倨傲大胆ナレハ一器量アル様ニ思フ。サウテナイ。誠ノ度量ハ謹慎篤実ノ上ニ在テ。倨傲大胆ノ処ニハナキシヤ。古稽叔夜カ鍾会ヲ侮テ。後其身刑セラル。其養生論閑言語トナル。知伯カ韓魏ヲ侮テ。終ニ身ヲ亡シ国ヲ亡ス。其强土堅甲ミナ敵ノ資トナル。稽叔夜カ自ラ才ヲ負ミ。知伯カ自ラ威名ニ夸ル。実ヲ剋スレハ。ミナ其量ノ狭小ナルヨリ起ル。耻ヘキコトシヤ。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る