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春秋左氏伝 / 僖公二十三年 天の興す所、誰か廃せん

子玉請殺之。楚子曰:「晉公子廣而儉,文而有禮。其從者肅而寬,忠而能力。晉侯無親,外內惡之。吾聞姬姓,唐叔之後,其後衰者也,其將由晉公子乎?天將興之,誰能廢之?違天必有大咎。」乃送諸秦。秦伯納女五人,懷嬴與焉。奉匜沃盥,既而揮之。怒曰:「秦晉匹也,何以卑我?」公子懼,降服而囚。他日,公享之。子犯曰:「吾不如衰之文也,請使衰從。」公子賦《河水》,公賦《六月》。趙衰曰:「重耳拜賜。」公子降,拜稽首,公降一級而辭焉。衰曰:「君稱所以佐天子者命重耳,重耳敢不拜?」

新字:子玉請殺之。楚子曰:「晋公子広而倹,文而有礼。其従者粛而寛,忠而能力。晋侯無親,外内悪之。吾聞姫姓,唐叔之後,其後衰者也,其将由晋公子乎?天将興之,誰能廃之?違天必有大咎。」乃送諸秦。秦伯納女五人,懐嬴与焉。奉匜沃盥,既而揮之。怒曰:「秦晋匹也,何以卑我?」公子懼,降服而囚。他日,公享之。子犯曰:「吾不如衰之文也,請使衰従。」公子賦《河水》,公賦《六月》。趙衰曰:「重耳拝賜。」公子降,拝稽首,公降一級而辞焉。衰曰:「君称所以佐天子者命重耳,重耳敢不拝?」

書き下し

子玉之を殺さんと請ふ。楚子曰く、「晉の公子は廣くして儉、文にして禮有り。其の從者は肅にして寬、忠にして能く力む。晉侯親無く、外內之を惡む。吾聞く、姬姓は唐叔の後、其の後に衰ふる者なりと。其れ將に晉の公子に由らんか。天將に之を興さんとす、誰か能く之を廢せん。天に違へば必ず大咎有り」と。乃ち諸を秦に送る。秦伯女五人を納る、懷嬴與る。匜を奉じて沃盥す、既にして之を揮ふ。怒りて曰く、「秦・晉は匹なり、何を以て我を卑しむる」と。公子懼れ、服を降して囚す。他日、公之を享す。子犯曰く、「吾衰の文なるに如かず、請ふ衰をして從はしめん」と。公子《河水》を賦し、公《六月》を賦す。趙衰曰く、「重耳賜を拜せよ」と。公子降りて、拜稽首す。公一級を降りて辭す。衰曰く、「君天子を佐くる所以の者を稱げて重耳に命ず、重耳敢へて拜せざらんや」と。

現代語訳

子玉(楚の成得臣)は、重耳の返答を聞いて彼を殺すよう願い出た。楚子(成王)は言った。「晋の公子は志が大きいのに慎ましく、教養があって礼をわきまえている。その従者たちはつつしみ深くて寛大、忠実でよく力を尽くす。いまの晋侯(恵公)には親しむ者がなく、国の内外から憎まれている。姫姓の国々の中で、唐叔(晋の始祖)の子孫は最後に衰える家系だと聞いている。それを支えるのはこの晋の公子ではないか。天がこの人を興そうとしているのに、誰がそれを廃することができよう。天に逆らえば、必ず大きな咎めがある」。そこで重耳を秦に送った。秦伯(秦の穆公)は一族の娘五人を重耳に嫁がせたが、その中に懐嬴(かいえい、かつて晋の太子圉の妻であった穆公の娘)が入っていた。懐嬴が水差しを捧げて重耳の手に水を注いで洗わせたところ、重耳は洗い終えるとその濡れた手を振って水を払った。懐嬴は怒って言った。「秦と晋は対等の国です。なぜ私を卑しめるのですか」。重耳は恐れ、衣服を脱いで自ら囚人の姿となって謝った。別の日、穆公が重耳を宴に招いた。子犯が言った。「私は趙衰の文辞の巧みさに及びません。どうか趙衰をお供させてください」。宴で重耳は『河水』の詩を歌い、穆公は『六月』の詩を歌った。趙衰が言った。「重耳さま、お礼を申し上げなさい」。重耳は堂を降りて、拝礼し額ずいた。穆公は階段を一段降りて辞退した。趙衰は言った。「君が天子を補佐する務めのことを歌い上げて重耳に命じてくださったのです。重耳がどうして拝礼せずにいられましょう」。

解説

楚の子玉は、重耳の「三舎を避けて、それでも駄目なら一戦」という答えに危険を感じ、殺すべきだと進言する。成王はこれを退け、重耳と従者たちの人柄を並べて「天將に之を興さんとす、誰か能く之を廢せん」と言う。敵に回る可能性のある者を、器量を認めてあえて生かす判断であり、成王の度量を示す一方、のちに楚が城濮で敗れる伏線にもなっている。秦では、懐嬴の一件が起こる。濡れた手を振り払う小さな無作法に、懐嬴は「秦・晉は匹なり」と抗議し、重耳は囚人の姿で詫びる。後ろ盾となる国の姫を軽んじれば、帰国の道が閉ざされかねないからである。宴の場面では、趙衰が穆公の歌った『六月』を、周王を助けて征伐する詩として受け取り、帰国支援の約束として拝礼させる。詩のやりとりで外交の合意を取りつける場面である。細かな礼の失敗をすぐに正し、言葉の機微がわかる補佐役を場に応じて選ぶ。支援を受ける側の振る舞いがよく描かれている。

この章句が説くこと

度量天命礼外交補佐役賦詩

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