和俗男子訓 / 巻二・人を推す公正さと、友の名誉を守る心
一中比、ある大名、側につかふべき士をえらびしに、諸士の頭役をつとめし者、わが組の中にて、あるものを書出せり、主人つかひけるが、其心にかなはで、もとの組にかへして、又人をえらばせしに、かの頭、同人を書出せり、家老中より、此者は、さきのたび、御心にかなはで、歸し給へるを、又書出されしは、いかゞと問ければ、頭云く、某に御預ありし人の中に、これ程の人はあらず、いくたび御尋ありとも、よき人をさし置て、別人を書出し候はんやと、答へしかば、主人其趣をきゝて、其儀ならば、いま一たびつかひみるべしとて、よび出せしに、甚だ心にかなひ、後には家老にまでなされけり、(此事、或人の物語にきけり、何れの國の事としらず、)一近きころ、ある士、家人を手討にするとて、家人にきられて死せり、かゝる所に、其士の同僚、不圖來りあはせ、やがて家人をきりころし、主人家來を討て、きずをからふりたる所に、行かゝり、介抱しけるが、深手故に、終に死したりといひなし、後日の證據になり、其士の跡をたてさせけり、かくすとすれど、皆人しりて、朋友のまとあるとを感じけるとなん、(右同斷なり、何れの國の事と知らず、)
新字:一中比、ある大名、側につかふべき士をえらびしに、諸士の頭役をつとめし者、わが組の中にて、あるものを書出せり、主人つかひけるが、其心にかなはで、もとの組にかへして、又人をえらばせしに、かの頭、同人を書出せり、家老中より、此者は、さきのたび、御心にかなはで、帰し給へるを、又書出されしは、いかゞと問ければ、頭云く、某に御預ありし人の中に、これ程の人はあらず、いくたび御尋ありとも、よき人をさし置て、別人を書出し候はんやと、答へしかば、主人其趣をきゝて、其儀ならば、いま一たびつかひみるべしとて、よび出せしに、甚だ心にかなひ、後には家老にまでなされけり、(此事、或人の物語にきけり、何れの国の事としらず、)一近きころ、ある士、家人を手討にするとて、家人にきられて死せり、かゝる所に、其士の同僚、不図来りあはせ、やがて家人をきりころし、主人家来を討て、きずをからふりたる所に、行かゝり、介抱しけるが、深手故に、終に死したりといひなし、後日の証拠になり、其士の跡をたてさせけり、かくすとすれど、皆人しりて、朋友のまとあるとを感じけるとなん、(右同断なり、何れの国の事と知らず、)
書き下し
一中比、ある大名、側につかふべき士をえらびしに、諸士の頭役をつとめし者、わが組の中にて、あるものを書出せり、主人つかひけるが、其心にかなはで、もとの組にかへして、又人をえらばせしに、かの頭、同人を書出せり、家老中より、此者は、さきのたび、御心にかなはで、歸し給へるを、又書出されしは、いかゞと問ければ、頭云く、某に御預ありし人の中に、これ程の人はあらず、いくたび御尋ありとも、よき人をさし置て、別人を書出し候はんやと、答へしかば、主人其趣をきゝて、其儀ならば、いま一たびつかひみるべしとて、よび出せしに、甚だ心にかなひ、後には家老にまでなされけり、(此事、或人の物語にきけり、何れの國の事としらず、)一近きころ、ある士、家人を手討にするとて、家人にきられて死せり、かゝる所に、其士の同僚、不圖來りあはせ、やがて家人をきりころし、主人家來を討て、きずをからふりたる所に、行かゝり、介抱しけるが、深手故に、終に死したりといひなし、後日の證據になり、其士の跡をたてさせけり、かくすとすれど、皆人しりて、朋友のまとあるとを感じけるとなん、(右同斷なり、何れの國の事と知らず、)
現代語訳
中ごろ、ある大名が側に仕えさせる者を選ぼうとしたところ、諸士の頭役を務める者が、自分の組の中からある者を書き出しました。主人はこの者を使いましたが、気に入らず、もとの組に帰して、また人を選ばせたところ、その頭は同じ人を書き出しました。家老たちが、この者は先ごろ殿のお気に召さず帰されたのに、また書き出されたのはどういうことかと尋ねると、頭は、私がお預かりしている者の中に、これほどの人はいません、何度お尋ねになっても、よい人を差し置いて別の人を書き出すことはいたしません、と答えました。主人はこの趣旨を聞いて、そういうことならもう一度使ってみようと呼び出したところ、たいへん気に入り、後には家老にまでなさったということです。(この事は、ある人の話に聞いたもので、どの国のことかは分かりません。)また、近ごろ、ある武士が、家来を手討ちにしようとして、逆に家来に斬られて死にました。そのとき、その武士の同僚がふと来合わせ、すぐに家来を斬り殺し、主人が家来を討って傷を負ったところへ行き合わせて介抱したが、深手のために亡くなった、ということにして、後日の証拠とし、その武士の跡を立てさせました。隠そうとしても皆が知ることとなり、人々は友の名誉を守ったこの同僚の行いに感心したということです。(右と同様で、どの国のことかは分かりません。)
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『韓非子』人主第五十二夫れ功有る者重禄を受け、能有る者大官に處れば、則ち私劒の士安んぞ私勇を離れて疾く敵を距ぐ無きを得ん、游宦の士焉んぞ私門に撓むを無くして清潔を務めざるを得んや。此れ賢能の士を聚めて私門の屬を散ずる所以なり。今近習なる者は必ずしも智ならず、人主の人に於けるや或いは知る所有りて之に聽く、入りて因りて近習と其の言を論じ、近習に聽きて其の智を計らず、是れ愚と智を論ずるなり。其の當途なる者は必ずしも賢ならず、人主の人に於けるや或いは賢とする所有りて之を禮す、入りて因りて當途の者と其の行を論じ、其の言を聽きて賢を用ひず、是れ不肖と賢を論ずるなり。
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史記 季布欒布列伝季布河東の守と為る、孝文の時、人其の賢を言ふ者有り、孝文召し、以て御史大夫と為さんと欲す。復た其の勇にして、酒を使ひて近づき難きを言ふ有り。至り、邸に留まること一月、見えて罷めらる。季布因りて進みて曰く「臣功無くして竊かに寵せられ、罪を河東に待つ。陛下故無くして臣を召す、此れ人必ず臣を以て陛下を欺く者有らん。今臣至るに、事を受くる所無くして、罷め去らしむ、此れ人必ず以て臣を毀る者有らん。夫れ陛下一人の誉を以て臣を召し、一人の毀を以て臣を去らしむ、臣恐らくは天下の識有る者之を聞き以て陛下を闚ふ有らん」と。上黙然として慚ぢ、良久しくして曰く「河東は吾が股肱の郡なり、故に特に君を召せしのみ」と。布辞して官に之く。
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『政談』譜代者の事偖譜代多く持ちたる人をは上よりも軍役の嗜み多きに沙汰し、譜代これなき家をは軍役の嗜みなきに沙汰し、咎有りて奉公人を誅戮するも譜代ものをは真の主従とさばき、出替りものを当分の雇はれものとさばき、また平日も譜代のさむらいには袴を着せ、出替りさむらいにはかまを許すへし、斯の如く取捌かは武家のともがら自然と合点ゆきて、此の風俗改まるへきなり、然れとも畢竟の所武家を知行所に置されは御城下は物入多くて、譜代のものを沢山に持つことなり難かるへし、仙台諏訪などの風俗承り及ひ候に、三四百石とるさむらい何れも譜代のさむらい三四十人も持ちて、さむらいなれとも草履も取り提灯も持つなり、武士軍中にてはもと草履もたいまつも持へき事なり、供一べんと云ふやうなる悪風俗出来して古風は皆失せたりと知るへし、
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『韓非子』難三第三十八今功有る者は必ず賞せらる、賞せらるる者は君に得とせず、力の致す所なればなり。罪有る者は必ず誅せらる、誅せらるる者は上を怨みず、罪の生ずる所なればなり。民、誅賞の皆身より起こるを知る、故に功利を業に疾くし、而して賜を君に受けず。「太上は、下之有るを智る」。此れ太上の下民は説ぶ無きを言ふなり、安んぞ恵を懐ふの民を取らん。上君の民は利害無し、説くに「近きを悦ばし遠きを来たす」を以てするも、亦舎てて可なり。哀公に臣有り、外は障距し内は比周して以て其の君を愚にす、而して之に説くに「賢を選ぶ」を以てす。此れ功伐の論に非ざるなり、其の心の所謂賢なる者を選ぶなり。哀公をして三子の外は障距し内は比周するを知らしめば、則ち三子は一日も立たざらん。哀公は賢を選ぶを知らず、其の心の所謂賢を選ぶ、故に三子事に任ずるを得たり。燕の子噲は子之を賢として孫卿を非とす、故に身死して僇と為る。夫差は太宰嚭を智として子胥を愚とす、故に越に滅ぼさる。魯君必ずしも賢を知らず、而して説くに賢を選ぶを以てするは、是れ哀公をして夫差・燕噲の患有らしむるなり。明君は自ら臣を挙げず、臣相進むるなり。自ら賢とせず、功自ら徇ふなり。之を任に論じ、之を事に試み、之を功に課す、故に群臣公政にして私無く、賢を隠さず、不肖を進めず。然らば則ち人主奚ぞ賢を選ぶに労せん。景公は百乗の家を以て賜ふ、而して説くに「財を節す」を以てするは、是れ景公をして術以て富の侈を知る無くして、独り上に倹ならしむるなり、未だ貧を免れざるなり。君有りて千里を以て其の口腹を養ふも、則ち桀・紂と雖も侈とせず。斉国は方三千里にして桓公其の半ばを以て自ら養ふ、是れ桀・紂より侈なり。然り而して能く五覇の冠と為る者は、侈倹の地を知ればなり。君と為りて下を禁ずる能はずして自ら禁ずる者、之を劫と謂ひ、下を飾る能はずして自ら飾る者、之を乱と謂ひ、下を節せずして自ら節する者、之を貧と謂ふ。
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論語・公冶長篇孟武伯問う、「子路は仁なりや。」子曰く、「知らざるなり。」又問う。子曰く、「由や、千乗の国、其の賦を治めしむ可きなり。其の仁を知らざるなり。」「求や何如。」子曰く、「求や、千室の邑、百乗の家、之が宰たらしむ可きなり。其の仁を知らざるなり。」「赤や何如。」子曰く、「赤や、束帯して朝に立ち、賓客と言わしむ可きなり。其の仁を知らざるなり。」
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『韓非子』六反第四十六其の言を聴きて其の当を求め、其の身に任じて其の功を責むれば、則ち無術不肖の者窮す。夫れ力士を得んと欲して其の自ら言ふを聴けば、庸人と烏獲と雖も別つべからざるなり。之に授くるに鼎爼を以てすれば、則ち罷健效る。故に官職なる者は、能士の鼎爼なり、之に任ずるに事を以てして愚智分かる。

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