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政談 / 譜代者の事

偖譜代多く持ちたる人をは上よりも軍役の嗜み多きに沙汰し、譜代これなき家をは軍役の嗜みなきに沙汰し、咎有りて奉公人を誅戮するも譜代ものをは眞の主從とさばき、出替りものを當分の雇はれものとさばき、また平日も譜代のさむらいには袴を着せ、出替りさむらいにはかまを許すへし、斯の如く取捌かは武家のともがら自然と合點ゆきて、此の風俗改まるへきなり、然れとも畢竟の所武家を知行所に置されは御城下は物入多くて、譜代のものを澤山に持つことなり難かるへし、仙臺諏訪などの風俗承り及ひ候に、三四百石とるさむらい何れも譜代のさむらい三四十人も持ちて、さむらいなれとも草履も取り提燈も持つなり、武士軍中にてはもと草履もたいまつも持へき事なり、供一べんと云ふやうなる惡風俗出來して古風は皆失せたりと知るへし、

新字:偖譜代多く持ちたる人をは上よりも軍役の嗜み多きに沙汰し、譜代これなき家をは軍役の嗜みなきに沙汰し、咎有りて奉公人を誅戮するも譜代ものをは真の主従とさばき、出替りものを当分の雇はれものとさばき、また平日も譜代のさむらいには袴を着せ、出替りさむらいにはかまを許すへし、斯の如く取捌かは武家のともがら自然と合点ゆきて、此の風俗改まるへきなり、然れとも畢竟の所武家を知行所に置されは御城下は物入多くて、譜代のものを沢山に持つことなり難かるへし、仙台諏訪などの風俗承り及ひ候に、三四百石とるさむらい何れも譜代のさむらい三四十人も持ちて、さむらいなれとも草履も取り提灯も持つなり、武士軍中にてはもと草履もたいまつも持へき事なり、供一べんと云ふやうなる悪風俗出来して古風は皆失せたりと知るへし、

書き下し

偖譜代多く持ちたる人をは上よりも軍役の嗜み多きに沙汰し、譜代これなき家をは軍役の嗜みなきに沙汰し、咎有りて奉公人を誅戮するも譜代ものをは真の主従とさばき、出替りものを当分の雇はれものとさばき、また平日も譜代のさむらいには袴を着せ、出替りさむらいにはかまを許すへし、斯の如く取捌かは武家のともがら自然と合点ゆきて、此の風俗改まるへきなり、然れとも畢竟の所武家を知行所に置されは御城下は物入多くて、譜代のものを沢山に持つことなり難かるへし、仙台諏訪などの風俗承り及ひ候に、三四百石とるさむらい何れも譜代のさむらい三四十人も持ちて、さむらいなれとも草履も取り提灯も持つなり、武士軍中にてはもと草履もたいまつも持へき事なり、供一べんと云ふやうなる悪風俗出来して古風は皆失せたりと知るへし、

現代語訳

さて、譜代を多く持っている人は、上からも軍役のたしなみが深いと評価し、譜代のいない家は軍役のたしなみがないと評価し、罪があって奉公人を処罰する場合も、譜代の者は真の主従として裁き、出替り者は当座の雇われ者として裁き、また平日も譜代の侍には袴を着せ、出替りの侍には袴を(特に)許すという扱いにすべきである。このように取り計らえば、武家の人々は自然と納得して、この風俗は改まるだろう。けれども結局のところ、武家を知行所に置かなければ、城下は物入りが多くて、譜代の者をたくさん持つことは難しいだろう。仙台や諏訪などの風俗を聞き及ぶところでは、三、四百石取りの侍が、いずれも譜代の侍を三、四十人も持っていて、侍であっても草履も取り提灯も持つのである。武士は戦の中ではもともと草履も松明も持つべきものである。「供一べん」というような悪い風俗ができて、古風はみな失われたと知るべきである。

解説

譜代を増やすために、命令ではなく評価と待遇で誘導せよと説く条である。譜代を多く持つ家を上が高く評価し、処罰でも譜代と出替りを区別し、袴の着用という目に見える格式で差を付ければ、武家は自然と納得して風俗が改まるという。望ましい行動を評価制度と象徴的な待遇で後押しするという手法は、今日の人事制度設計の考え方そのものである。ただし徂徠は、城下住まいの物入りという根本が変わらなければ限界があるとも認める。制度の工夫と環境の改革を両輪で考える視点が大切である。

この章句が説くこと

評価人事待遇譜代制度軍役

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