和俗男子訓 / 巻二・小事を慎まねば大事となる
一小事をつゝしまざれば、かならず大事となる也、兵書云、不去兩葉、將用斧柯、これをいへり、むかし多田攝津守源賴光の家に、四天王とて、世に超たる兵あり、(美田源次綱(一に渡邊源五ともいふ)、公時、村岡五郎平貞道、平季武、以上四天王なり、近年妄作の書に、酒田造酒允公時、碓水荒太郎橘定光、卜部次官季武など記せり、かつて據なきことなり、信用することなかれ、)其中に、公時は、其智他に超たり、あるとき綱向公時、心の剛になるやうを、敎へよといひければ、公時こたへて、心の剛をならはんと思はゞ、臆病をならひと、いひければ、綱やがて心得けり、是はかならずしも、臆病になれとにはあらず、心ながく案じはからへと、大志あるものは、物とがめをせず、小事をつゝしみて、大事になさじとの慮なりとあり、一心ながく案じはからふといふに、時あり、若事出來たるとき、心ながく案じはからはゞ、圖をはづすと有べし、殊に若きともがらは、はやまりたりといはれたらんは、くるしからじ、おそなはりて、隱したりといはれんは、生涯の瑕瑾と成べし、
新字:一小事をつゝしまざれば、かならず大事となる也、兵書云、不去両葉、将用斧柯、これをいへり、むかし多田摂津守源頼光の家に、四天王とて、世に超たる兵あり、(美田源次綱(一に渡辺源五ともいふ)、公時、村岡五郎平貞道、平季武、以上四天王なり、近年妄作の書に、酒田造酒允公時、碓水荒太郎橘定光、卜部次官季武など記せり、かつて拠なきことなり、信用することなかれ、)其中に、公時は、其智他に超たり、あるとき綱向公時、心の剛になるやうを、教へよといひければ、公時こたへて、心の剛をならはんと思はゞ、臆病をならひと、いひければ、綱やがて心得けり、是はかならずしも、臆病になれとにはあらず、心ながく案じはからへと、大志あるものは、物とがめをせず、小事をつゝしみて、大事になさじとの慮なりとあり、一心ながく案じはからふといふに、時あり、若事出来たるとき、心ながく案じはからはゞ、図をはづすと有べし、殊に若きともがらは、はやまりたりといはれたらんは、くるしからじ、おそなはりて、隠したりといはれんは、生涯の瑕瑾と成べし、
書き下し
一小事をつゝしまざれば、かならず大事となる也、兵書云、不去兩葉、將用斧柯、これをいへり、むかし多田攝津守源賴光の家に、四天王とて、世に超たる兵あり、(美田源次綱(一に渡邊源五ともいふ)、公時、村岡五郎平貞道、平季武、以上四天王なり、近年妄作の書に、酒田造酒允公時、碓水荒太郎橘定光、卜部次官季武など記せり、かつて據なきことなり、信用することなかれ、)其中に、公時は、其智他に超たり、あるとき綱向公時、心の剛になるやうを、敎へよといひければ、公時こたへて、心の剛をならはんと思はゞ、臆病をならひと、いひければ、綱やがて心得けり、是はかならずしも、臆病になれとにはあらず、心ながく案じはからへと、大志あるものは、物とがめをせず、小事をつゝしみて、大事になさじとの慮なりとあり、一心ながく案じはからふといふに、時あり、若事出來たるとき、心ながく案じはからはゞ、圖をはづすと有べし、殊に若きともがらは、はやまりたりといはれたらんは、くるしからじ、おそなはりて、隱したりといはれんは、生涯の瑕瑾と成べし、
現代語訳
小さな事を慎まなければ、必ず大事になります。兵書に「両葉を去らざれば、将に斧柯を用いんとす」とあるのはこのことです。昔、多田摂津守源頼光の家に、四天王といって世に抜きんでた武士がいました。(美田源次綱(一に渡辺源五ともいう)、公時、村岡五郎平貞道、平季武、以上が四天王です。近年の根拠のない書物には、酒田造酒允公時、碓水荒太郎橘定光、卜部次官季武などと記していますが、まったく根拠のないことです。信用してはいけません。)そのうち公時は、その知恵が他に抜きんでていました。あるとき綱が公時に向かって、心が剛くなる方法を教えてほしいと言ったところ、公時は、心の剛さを習おうと思うなら、臆病を習いなさい、と答え、綱はすぐに納得しました。これは必ずしも臆病になれということではなく、心長く思案を巡らせよ、大志のある者は物咎めをせず、小事を慎んで大事にしないようにとの配慮だ、とあります。心長く思案を巡らせるにも、時があります。もし事が起きたとき、心長く思案を巡らせば、機を逸することもあるでしょう。特に若い者は、早まったと言われるのは苦しくありませんが、遅れて隠したと言われるのは、生涯の傷となるでしょう。
解説
この章句が説くこと
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