韓非子 / 人主第五十二
夫有功者受重禄,有能者處大官,則私劒之士安得無離於私勇而疾距敵,游宦之士焉得無撓於私門而務於清潔矣?此所以聚賢能之士而散私門之屬也。今近習者不必智,人主之於人也或有所知而聽之,入因與近習論其言,聽近習而不計其智,是與愚論智也。其當途者不必賢,人主之於人或有所賢而禮之,入因與當途者論其行,聽其言而不用賢,是與不肖論賢也。
新字:夫有功者受重禄,有能者処大官,則私劒之士安得無離於私勇而疾距敵,游宦之士焉得無撓於私門而務於清潔矣?此所以聚賢能之士而散私門之属也。今近習者不必智,人主之於人也或有所知而聴之,入因与近習論其言,聴近習而不計其智,是与愚論智也。其当途者不必賢,人主之於人或有所賢而礼之,入因与当途者論其行,聴其言而不用賢,是与不肖論賢也。
書き下し
夫れ功有る者重禄を受け、能有る者大官に處れば、則ち私劒の士安んぞ私勇を離れて疾く敵を距ぐ無きを得ん、游宦の士焉んぞ私門に撓むを無くして清潔を務めざるを得んや。此れ賢能の士を聚めて私門の屬を散ずる所以なり。今近習なる者は必ずしも智ならず、人主の人に於けるや或いは知る所有りて之に聽く、入りて因りて近習と其の言を論じ、近習に聽きて其の智を計らず、是れ愚と智を論ずるなり。其の當途なる者は必ずしも賢ならず、人主の人に於けるや或いは賢とする所有りて之を禮す、入りて因りて當途の者と其の行を論じ、其の言を聽きて賢を用ひず、是れ不肖と賢を論ずるなり。
現代語訳
功績のある者が手厚い俸禄を受け、能力のある者が大きな官職に就けば、私的な剣の使い手が私的な勇を捨てて敵を防ぐことに励まないはずがあろうか。仕官を求めて渡り歩く者が権門に屈するのをやめて清廉に努めないはずがあろうか。これが賢く有能な士を集め、権門の取り巻きを散らす方法である。今、側近は必ずしも智恵があるわけではない。君主がある人物の智恵を知って話を聞いても、奥に入ってから側近とその言葉を論じ、側近の言うことを聞いてその人物の智恵を量らないのは、愚か者と智恵を論じることである。要職にある者は必ずしも賢いわけではない。君主がある人物を賢いと思って礼遇しても、奥に入ってから要職の者とその行いを論じ、その者の言うことを聞いて賢者を用いないのは、不肖の者と賢さを論じることである。
解説
関連する章句
-
『韓非子』人主第五十二今は則ち然らず。其の當途の臣は勢を得て事を擅(ほしいまま)にし、以て其の私を環(めぐ)らし、左右近習は朋黨比周して以て䟽遠を制す、則ち法術の士は奚(いず)れの時にか進用せらるるを得ん、人主は奚れの時にか論裁するを得ん。故に術有るも必ずしも用ひられず、而して勢は兩立せず、法術の士焉(いずく)んぞ危ふきこと無きを得んや。故に人に君たる者、能く大臣の議を退けて左右の訟に背き、獨り道言に合ふに非ざれば、則ち法術の士安んぞ能く死亡の危を蒙りて說を進めんや。此れ世の治まらざる所以なり。明主は、功を推して爵禄し、能を稱(はか)りて官事し、舉ぐる所の者は必ず賢有り、用ふる所の者は必ず能有り。賢能の士進めば、則ち私門の請止む。
-
『韓非子』八姦第九故に曰く、賢材なる者は厚禄に處り、大官に任ず。功大なる者は尊爵有り、重賞を受くと。賢を官する者は其の能を量り、禄を賦する者は其の功を稱(はか)る。是を以て賢者は能を誣(し)ひて以て其の主に事へず、功有る者は樂しみて其の業を進む、故に事成り功立つ。今は則ち然らず。賢不肖を課せず、功勞有るを論ぜず、諸侯の重んずるを用ひ、左右の謁を聽き、父兄大臣は上に爵禄を請ひて、下に之を賣り、以て財利を收め及び以て私黨を樹つ。
-
『韓非子』難三第三十八今功有る者は必ず賞せらる、賞せらるる者は君に得とせず、力の致す所なればなり。罪有る者は必ず誅せらる、誅せらるる者は上を怨みず、罪の生ずる所なればなり。民、誅賞の皆身より起こるを知る、故に功利を業に疾くし、而して賜を君に受けず。「太上は、下之有るを智る」。此れ太上の下民は説ぶ無きを言ふなり、安んぞ恵を懐ふの民を取らん。上君の民は利害無し、説くに「近きを悦ばし遠きを来たす」を以てするも、亦舎てて可なり。哀公に臣有り、外は障距し内は比周して以て其の君を愚にす、而して之に説くに「賢を選ぶ」を以てす。此れ功伐の論に非ざるなり、其の心の所謂賢なる者を選ぶなり。哀公をして三子の外は障距し内は比周するを知らしめば、則ち三子は一日も立たざらん。哀公は賢を選ぶを知らず、其の心の所謂賢を選ぶ、故に三子事に任ずるを得たり。燕の子噲は子之を賢として孫卿を非とす、故に身死して僇と為る。夫差は太宰嚭を智として子胥を愚とす、故に越に滅ぼさる。魯君必ずしも賢を知らず、而して説くに賢を選ぶを以てするは、是れ哀公をして夫差・燕噲の患有らしむるなり。明君は自ら臣を挙げず、臣相進むるなり。自ら賢とせず、功自ら徇ふなり。之を任に論じ、之を事に試み、之を功に課す、故に群臣公政にして私無く、賢を隠さず、不肖を進めず。然らば則ち人主奚ぞ賢を選ぶに労せん。景公は百乗の家を以て賜ふ、而して説くに「財を節す」を以てするは、是れ景公をして術以て富の侈を知る無くして、独り上に倹ならしむるなり、未だ貧を免れざるなり。君有りて千里を以て其の口腹を養ふも、則ち桀・紂と雖も侈とせず。斉国は方三千里にして桓公其の半ばを以て自ら養ふ、是れ桀・紂より侈なり。然り而して能く五覇の冠と為る者は、侈倹の地を知ればなり。君と為りて下を禁ずる能はずして自ら禁ずる者、之を劫と謂ひ、下を飾る能はずして自ら飾る者、之を乱と謂ひ、下を節せずして自ら節する者、之を貧と謂ふ。
-
『韓非子』用人第二十七人に君たる者、能く賢巧の能はざる所を去りて、中拙の万に失はざる所を守れば、則ち人力尽きて功名立つ。明主は為すべきの賞を立て、避くべきの罰を設く。故に賢者は賞に勧みて子胥の禍ひを見ず、不肖者は罪少なくして傴の背を剖かるるを見ず。盲者も平に処りて深谿に遇はず、愚者も静を守りて険危に陥らず。此の如くなれば、則ち上下の恩結ぶ。古の人曰く、「其の心は知り難く、喜怒は中て難し」と。故に表を以て目に示し、鼓を以て耳に語り、法を以て心に教ふ。人に君たる者、三易の数を釈てて一難知の心を行へば、此の如くなれば、則ち怒り上に積もりて怨み下に積もる。
-
『韓非子』八姦第九賢を官にするには其の能を量り、禄を賦するには其の功に稱わす。
-
『韓非子』飭令第五十三功に任ずれば則ち民に言少なく、善に任ずれば則ち民に言多し。法を行ふに曲斷し、五里を以て斷ずる者は王たり、九里を以て斷ずる者は强し、宿治する者は削らる。刑を以て治め、賞を以て戰はしめ、禄を厚くして以て術を用ふ。都の過ちを行(ただ)せば、則ち都に姦市無し。物多く末衆く、農㢮(ゆる)みて姦勝てば、則ち國必ず削らる。